授業参観を見守る父
たかしの奴、
また猫背になりやがって!
男ならビシッと構えとけよ!
今日は授業参観だってのに、
1回も手すら挙げてねえじゃねえか。
俺が男手一つで育てたのが
悪かったってえのもあるが。
喧嘩はするわ、
学校から呼び出しはくらうわ、
本当にやんちゃに
育っちまいやがった。
母ちゃんがいないのに、
泣きべそかかなくなったのは
立派だが、
勉強だけは俺と似て
ダメなんだよな~。
「たかし!手挙げろ!」
あいつ、
顔真っ赤にしやがって!
後ろに貼ってある書道の字も
きったねえなぁ。
他の子は『希望』とか『未来』とか、
漢字二文字で綺麗な文字を
書いてる中、
たかしの奴『交通』って何だよ!
しかも『交通』の『交』の字、
デカ過ぎじゃねえか!
『通』が全然スペース
足りてないし・・・。
馬鹿だなぁ!
たかしごめんな。
母ちゃんいたら、
もっと字もうまく書けてたかも
知れねえな。
今日は帰ったら、
たかしの好きなカレー作ってやろう。
たかし、授業頑張れよ!
(終)
解説
父はすでに亡くなっていて、
この場に母がいないのは、
亡くなった父の代わりに
母が働いているため。
また、後ろに貼ってある
書道の字。
最初は『父』と書いていたが、
後で『交通』に書き直した。
『交』の字が大きいのも、
そのため。
つまり、
たかしは父の方に懐いていた。