枕元に立ってじっと見つめる伯父さんの正体
これは、母が子供の頃の話です。
私の母は薄情な性格なのか、自身の親と姉妹を除いた親族とは全くと言っていいほど付き合いがありません。
その親族も次々と亡くなり、今ではほとんど顔も思い出せないのだそうです。
しかし、そんな母にも一人だけ今でも鮮明に覚えている『伯父さん』がいます。
その伯父さんは母が幼い頃に亡くなっている為、生前の記憶はほとんどないそうです。
亡くなった時も、祖母から「伯父さんが死んだ」と聞かされただけで、幼かったこともあってその時はさして気にも留めていませんでした。
ところが亡くなって何日目からか、その伯父さんが毎日枕元に立つようになったそうです。
伯父さんは何をするわけでもなく、幼い母をただじっと見つめていました。
母は怖いとは思いませんでしたが、ろくに面識もない伯父さんがなぜいつも現れるのか、ただただ不思議だったそうです。
母が伯父さんのことを詳しく知ったのは高校生の時でした。
よくあるように、母はある日に額縁の裏から戸籍謄本を見つけ出し、そこで初めて自分が養女であることを知りました。
慌てて両親を問い詰めたところ、母は養父の兄夫婦の子でした。
母の実母は母が生まれてまもなく亡くなった為、引き取られてきたのだということを聞かされました。
そして母の幼い記憶にある伯父さんは、実は『母の本当の父親』でした。
枕元に立つ伯父さんの姿は、母の持つ唯一の父の記憶だったのです。
(終)