仕出し弁当の配達で遭遇した奇妙な出来事
これは、仕出し弁当屋で配達のバイトをしていた時の話。
たまに妙な客からの注文があった。
怪しげなセミナーだったり、何かの撮影現場だったり。
お葬式の会場に運ぶことも多かった。
ある時、郊外の小さな町へ弁当を届けに行った。
そこではお葬式が行われていた。
よくあるお葬式で、何も変わったことはなかったのだが・・・。
次はあの家だよ
次の週にも、その地区へ弁当を届けに行った。
この時もお葬式だった。
それも、代金を払ってくれたのは前回と同じおばさん。
前回は地区の施設を使ったお葬式だったが、今回は故人の自宅らしかった。
その次の週はシフトに入っていなかったが、さらに翌週はまたもその地区へ弁当を届けに行った。
後で帳簿を見せてもらったら、5週連続で注文が入っていた。
お客さんの名前も、注文の数も、いつも同じだった。
注文しているのはあのおばさんかも知れない。
今回も故人の自宅でのお葬式で、あのおばさんが会計をしてくれた。
聞いちゃいけないような気もしたが、つい聞いてしまった。
「最近、こちらでお葬式が多くないですか?」
一瞬、おばさんの顔が強張ったように感じた。
おばさんは黙って空を見上げた後、おかしな事を言った。
「そうだね。毎年この時期はね」
「毎年なんですか?」
「次はあの家だよ」
おばさんは無表情に通りの向こうのある家を指差した。
見ると、その家の玄関脇に30センチ四方くらいの『赤い紙』が貼ってあった。
紙には何か丸い記号のようなものが書いてあった。
そう言えば、今いるこの家にも玄関に紙が貼ってあった。
「あの赤い紙は何なんですか?」
「そういうシルシだよ」
もっと聞こうと思ったが、「もういいから帰りなさい」と言われてしまった。
その後も、やはりその地区で同じおばさんから弁当の注文があった。
気味が悪かったので、俺はその地区への配達を避けてもらった。
しばらくしてそのバイトを辞めたので、おばさんからの弁当の注文がいつまで続いていたのかは分からない。
おばさんの話が本当なら、今年もあそこで毎週お葬式が行われているのだろう。
(終)