死んだら俺もポテトサラダの中に混ざるのかな
これは大学時代の一時期に、よくないモノに憑きまとわれて疲弊していた話。
そのモノは目には見えないけれど、ゾワゾワと感じる程度だったが・・・。
どこで拾ってきたのか、家にいるとよくある現象に加えて、毎晩夢に出てくるようになっていた。
その姿が本当におぞましい。
老若男女、色んな人の色んな身体の一部がポテトサラダのように練り固まったような姿だった。
夢に現れた救世主
「あぁ、これは夢だな」と分かる感じの夢だったけれど、色んな声で「助けてくれ~」だの「恨みを~」だの「許さない~」だの、悲鳴や怒声、罵声を口々にぶつけてくる。
気持ち悪い容姿も相まって、目覚める度にゲーゲーと吐いていた。
当然、体調も精神も少しずつ病んでいき、大学にも行けなくなっていたけれど、こんなことを誰にも相談できなかった。
「このまま一人で死ぬのかな」、「死んだら俺もあのポテトサラダの中に混ざるのかな」、終いには「アレの中に混ざるのなら一人じゃなくなるのか・・・」と半分諦めていた。
そんな折、就職してから疎遠になっていた古い友人からの着信があった。
用件を要約すると、「なんとなく気になって電話した。今から泊まりに行くから家に居ろ」だと言う。
正直「めんどくせぇ」と思ったけれど、どうせ用事も無いし、その友人は昔から人の話を聞かないヤツだったので家に泊めることになった。
そうして家にやって来た友人は特に大事な話があるでもなく、勝手に部屋の掃除をして、一人でゲームをして、二人分の飯を作って、風呂に湯を張って、まるで自分の家のように普通に過ごしていた。
その後、そのまま酒を飲んで雑魚寝した。
酒の効果と久々の来客の疲れのおかげか、俺もすんなり寝入ることが出来たけれど、夢の中にはやっぱりアレが出てきた。
いつも通り好き勝手なことを喚かれてげんなりしていたら、突然、俺とソレの間に割って入るように友人が現れた。
そして、「えっ?あれ?」と混乱している俺を他所に、「愚痴愚痴愚痴愚痴うるせぇよ!」と一喝。
ポテトサラダは沈黙し、そのまま歩を進める友人。
おもむろにポテトサラダの顔の一つをむんずと掴んで、ズルッと引きずり出してはドベシャアッと地面に投げ出した。
そして引きずり出された顔の前にどっかり座り込み、「座れ!で?お前は何が恨めしい?何が許せない?他人である俺達に何をして欲しい?対価に何をしてくれる?俺達に何の得がある?」と尋問する。
しかしその顔が、「えーあーうー・・・」状態で口を噤んでしまっているところを一瞥した友人は、「話にならねぇ!次、お前!」と、次の顔を掴んでズルッドベシャアッと地面に投げ出す。
「座れ!お前は?(中略)お前もか!次!」、ズルッドベシャアッ、「座れ!お前・・・(中略)次!」、ズルッドベシャアッ、「座れ(中略)次!」、ズルッドベシャアッ、「(中略)」・・・。
友人は老若男女、皆同じように怒鳴りつけて、全員バラバラに分解する。
結局、ポテトサラダの中には40人くらいが居た。
そして友人は、怒涛のようにソレらに説教を始めた。
「好き勝手に恨み言を投げかけておきながら、誰も何に対して恨んでいるのかを言えないとはどういう了見だ!」
「見知った顔ならともかく、見知らぬ他人に対して対価も提示せず救いを乞うとは無礼だ!」
「集まっている時は散々騒いでいたくせに、引き剥がされた途端に何も言えなくなるその根性も気に食わん!」
説教の最後には、「そもそも一般人の俺達が、お前らの往くべき所に導くなんて出来るわけがないだろ。もうバラバラに動けるだろうから、それぞれ勝手に神社でもお寺さんでも教会でもお地蔵さんの所でも行って、そこの主さんに導いてもらえ!後は知らん。散れ散れ!」と言い放ち、シッシッと散会させた。
久しぶりにすっきりと目覚めた俺に、友人が「お疲れさん」と笑顔で朝飯を用意してくれていた。
ただ、どうしても気になって「アレは何だったんだ?」と聞いてみたけれど、「知らね」と返されたが、「40人39脚で縺(もつ)れて転んで絡まって身動きが取れなくなった感じじゃね?」とだけ付け加えた。
ついでに、どうしていきなり泊まりに来たのかも聞いてみたら、「なんとなく。確証はないけど絶対にビンゴ!って思うことあるじゃん?」と笑って言った。
それを聞いた俺は、よく分かるような分からないような感じに・・・。
あまりスッキリしないまま終わったけれど、大学を卒業後もその友人とはたまに連絡を取り合う程度の付き合いは続いている。
(終)