奇妙な夢を見た次の日の学校で
これは、僕が中学1年生の時のお話。
友人の家に遊びに行った帰り、おもちゃ屋さんの前に見たことのある子が佇んでいました。
それは隣のクラスの子で、顔は知っているものの名前がはっきりと思い出せず、うろ覚えのまま声をかけました。
「おーい、砂川。何してんの?はよ帰れよー」※仮名
しかし彼は返事もせず、ジーっと僕の方を見つめ続けたまま反応がありません。
(あれ?名前を間違ったかな?えーっと、何だっけ・・・)
自転車で走る僕が彼の名前の間違いを確認するには、相当な距離を過ぎていました。
なので、さして気にも留めずにそのまま帰宅の途につきました。
(ま、いっか。明日学校で謝ればいいし)
その晩、奇妙な夢を見ました。
授業中に隣のクラスの大騒ぎが聞こえ、何事かと廊下に出てみると、眩い光が隣のクラスの前の廊下から一直線に空へ昇っていくところでした。
その時、何故かこう思ったのが印象に残る夢でした。
(ああ、いってしまった・・・)
明くる朝、普段と同じように登校すると、クラスの雰囲気が変なことに気がつきました。
ひどく興奮してウロウロしている者や、机に突っ伏して泣いている女子など。
その異様な雰囲気に何事かと訊ねてみると、返ってきた答えは衝撃的なものでした。
「あんた、何にも知らんの?隣の砂谷君、夕べ自殺したんよ!」
「ええっ!?」
その衝撃的な言葉を聞いた瞬間、昨日の夢は”この事だったのだ”と悟りました。
僕が間違った名前で声をかけた時、そう、あのおもちゃ屋さんの前で出会った時、実は彼は万引きを見つかり、店主に相当脅されて茫然自失の状態で出てきたところだったそうです。
「親に言うぞ」
「警察や学校にも全部通報してやる」
「泣いて詫びたって通用しないぞ」
気の弱かった彼は、この言葉を全部まともに受け止めてしまい、一人悩んだ末に自ら命を絶ったようでした。
第一発見者は彼の母親だったそうです。
なんでも、姿が見えないので探していたところ、明け方近くに納屋で無残な姿になっている自分の息子を見つけたと、人づてで聞きました。
その当時も、そしてあれから数年が経った今でも、僕には気になっていることがあります。
あの時、彼は名前を間違って呼ばれたのを、どのように思ったのでしょうか。
あの時、もし僕が立ち止まって話しかけていたら、彼の運命は変わっていたのでしょうか。
(終)