とある山の「山頂の剣」という伝説
どこの地方の山にも伝説のような話は残っている。
これはその中でたまに聞く話の一つで、『山頂の剣』という伝説。
ある日のこと、山歩きの好きな知人が東北のそれほど有名でもない山へ、初夏の頃に登山に出かけた。
地元の登山家にルートを聞き、地図とコンパスを手に半日ほどの行程だった。
連れ立った仲間2人と、登山道を辿って山頂を目指す。
錆びた鉄剣
山頂に着くと、ルートマップにない獣道を見つけた。
知らない山で迷うのは避けたかったので無視しようと思っている矢先、木々の間から“立て札”のようなものが見えた。
文字はすでにかすれて読めないが、その先に何かあるようだった。
3人は好奇心から少し入っていくと、そこは見晴らせる場所になっていて、さらに大きな岩があった。
ただ、注連縄(しめなわ)に柵までしてある。
「あぁ、何か祭ってあるんだな」と思って回り込んでみると、その岩の上に横たわる人影が見えた。
だが、初夏だというのに冬山に登るような装備で、岩の下を覗き込むようにしている。
声をかけてみた。
「何かあるんですか?」
しかし、返答はない。
さらに近づいてみると、すでに白骨化していた。
それを見た3人は、全員が思わず息を呑んだ。
遭難者は珍しくなかったが、彼らを驚かせたのは、その遺体の背中に”錆びた鉄剣”が突き立っていたからだ。
急いで麓の警察に連絡をする。
しばらくして大勢の人がやって来て、現場は騒然とした。
「あぁ、殺人事件に巻き込まれるとは・・・」
そう思っていると、少し様子が違った。
地元の人たちは「またか・・・」というような話をしている。
身に着けていた服を切り裂いて白骨体をその岩から下ろすと、さっきは気づかなかったが足元に倒れていた立て札を誰かが立て直していた。
「また馬鹿が触りに行ったんだな」
そう呟くと、岩を拝んで立ち去った。
その立て札に目をやると、こう書かれていた。
『鬼の首落とし。立入禁止。触るな。』
いつの頃に立てられたものかは分からないが、すでに数百年は経っているという大きな鉄剣は、その昔この山を荒らしていた鬼の首をはねたものだという。
抜けない、そして切れない鉄剣。
聞けば、数年に一人は犠牲者が出るという。
(終)