穂が作る波の上に突き出された生首

ススキ

 

これは、知り合いの奇妙な体験話。

 

彼の家の近くの山には、広いススキ野原がある。

 

秋にススキの穂が風に揺れている風景、それを見るのが好きなのだそうだ。

 

しかしそこで、一度だけ嫌な思いをしたことがあるらしい。

 

ある年、彼がススキ野原の中をのんびり歩いていた時のこと。

 

横手からガサリと音がして、ススキが作る波の上に何かが突き出された。

 

ざんばら髮に、土色の肌。

 

間違いなく『人の生首』だ。

 

ギョッとしたのも一瞬、すぐに正体に気がつく。

 

マネキンの頭だった。

 

誰かが棒の先に人形の頭部をくっ付けて、それをススキの間から現したのだ。

 

「こんな趣味の悪いことをする奴は一体誰だ!」

 

気の強い彼は腹を立て、首の出ている場所に向かって走り出した。

 

しかし、到達する寸前に、ササッと首は引っ込められた。

 

見当を付けた辺りを探し回ったが、イタズラを仕掛けた者は見つからない。

 

諦めて歩き出すと、背後からまたガサリと音がする。

 

すると、あの首が高みから彼を見つめていた。

 

全速力で追い駆けてみたが、目前でやはりススキの中へ姿を消す。

 

そんな追い駆けっこが何回か繰り返されたという。

 

そのうち、嫌なことに気がついた。

 

首が突き出される場所までの距離が、少しずつ彼に近づいて来ている・・・。

 

マネキンの表情が、だんだんと詳しく見えるようになっているのがその証だ。

 

そして現れる度に、首には黒い筋が増えていた。

 

今は、はっきりと見える。

 

傷だ。

 

何か鋭い物で引っ掻いて削ったような。

 

何故なのか理由はわからないが、彼をからかっている何者かは、首を隠す度にその首に切りつけている。

 

それに思い至った途端、怒りよりも気味悪さが勝ったらしい。

 

もうこれ以上は関わらずに、すぐさま帰ることにした。

 

ガサリという音は無視して、野原を突っ切る。

 

入口の山道、車を停めた辺りまで足を運ぶと、いきなり何かが飛んできた。

 

彼と車の間に落ちてくる。

 

それは、ズタズタに刻まれたマネキンの頭部。

 

さっきまであった両目が、綺麗に抉(えぐ)られていた。

 

走り出したくなるのを押さえて、ゆっくりと首を迂回した。

 

そのまま車に乗り込むと、すぐさま発進させて山を下りる。

 

バックミラーに移るススキ野原には、誰の姿も見えなかった。

 

さすがにその年は、もうそこには出掛けなかったそうだ。

 

「まったく、変質者があんな山奥まで出張ってくるなよな」

 

彼はそうぼやいていた。

 

(終)

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