質屋にやって来た奇妙な客
これは、知り合いの話。
彼のお祖父さんは、山奥の村で雑貨店を営んでいた。
昔はそれなりに立派な家柄だったせいか、ちょっとした金貸しや質屋のような仕事も手掛けていたらしい。
ある年、何とも”奇妙な客”が来たのだという。
中肉中背の男で、顔に見覚えはない。
まず間違いなく村の住民ではなかった。
それなのに、どこかで出会った気がしてならない。
「誰だろう?」と訝しく思いながら対応すると、その男の言うことが、これまた奇妙だった。
「娘が輿入れすることになった。急遽まとまった額の金子が必要になったので融通してほしい。しかし、自分にはこれといって質草になるようなありがたい物はない。迷惑だとは思うが、一つこれで金を貸してもらえないだろうか?」
そう言って男が差し出したのは、枯れ木のように干からびた『人間の上腕』だった。
その時に初めて、男が片腕であることに気がついた。
左腕がない。
正直、気持ち悪いと思ったが、なぜか「力になってやりたい」と考えたお祖父さんは、男の言うままの額を腕と引き替えに渡してやったのだという。
そして、男はこちらが恐縮するくらい、腰を低くして帰って行った。
帰った後で、「はて、何でこんな頼みを聞き入れてしまったのやら・・・」と、自分でも不思議に感じて仕方がなかったそうだ。
家族からも「不気味!」、「詐欺だろ、それ!」と非難されたが、かえって意地になってしまい、責任を持って大切に保管したのだという。
もっとも、流したくとも流せるような品ではなかったのだが。
1年後、すっかり腕のことなど忘れ果てた頃、件の男が再びお祖父さんの元を訪れに来た。
男は不安そうな顔で、「まだ腕はあるか?」と聞いてくる。
お祖父さんが油紙に包んだそれを出してくると、嬉しそうに言った。
「あぁ、ありがたい。やはり不便でな。仲間が都合してくれたんで、思ったより早く金ができた。確認して返してほしい」
男が持ってきた額はちょっと多目だったが、利子だと思って貰っておくことにした。
金を納めて腕を返す。
・・・と、目の前で「すっぽん!」と弾けるような大きな音がした。
驚いて男を見やると、「世話になった」と快活に笑って店を出て行った。
健康そうに日焼けした右腕と、生白い左腕を交互に元気よく振りながら。
「いやぁ、金貸しってのは色々と嫌なことも多かったがね、あれは何というか、良かったというか、面白かった想い出だな」
お祖父さんは目を細めながら、この話をしてくれたそうだ。
(終)