人間に使ってはいけない不思議な能力

手

 

これは、妻の持つ『不思議な能力』の話。

 

俺の親父が癌になった時、手術をしてストーマになってしまったが、すごく元気でみんな安心していた。

 

でも、妻だけが厳しい顔をしていて、再発したくなければ守らなければいけない事がある、という。

 

「お肉と化学物質的な食べものは口にしないでください。お義父さんの体の中にはまだ癌になっていない卵がいっぱいあるんです。孵化させないでください」

 

親父も、「わかったわかった。俺もこんなのは二度とゴメンだからな」と言っていた。

 

だが、親父は守らなかった。

 

そして当然のように癌は再発してしまった。

 

妻に言ったところ、「今回は黒いモヤがかかっていたから無理だと思う・・・」と言う。

 

まだ親父には生きていて欲しい俺は、妻に縋(すが)った。

 

頼むから今回で死なせないでくれ、と。

 

妻は困ったように笑って、こう言った。

 

「わかった。今回だけね」

 

そうして一緒に病院へ行き、親父の手術が終わるのを待った。

 

手術が終わった後、妻は麻酔で寝ている親父の手を両手でじっと握っていた。

 

そして帰り際、こんなことを言った。

 

「私はルールを破った。私の能力は人間に使っちゃいけない。だけど、そのルールを破ったからには何かしらのペナルティがある」

 

言っていることがよくわからず怖かったが、俺は何とかなるだろう・・・くらいに軽く考えていた。

 

でも帰りの道中で事故を起こした。

 

幸い怪我もなく車だけがダメになったが、妻は「あー、これで済んで良かった」と言っていた。

 

その後、親父は奇跡的な回復を見せ、主治医にも術後でそんなに動けるなんて信じられないと、病院では不死身のヒーロー扱いのようにされていた。

 

だが、人という生き物は調子に乗る。

 

親父はまた言いつけを破り、癌が再発した。

 

前回の事故も件もあり、さすがに今回は妻に頼めなかった。

 

手術はしたが日に日に弱っている状況を見ていると、もう長くないだろうな・・・。

 

(終)

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