幽霊のように現れては何かを告げる少年
これは、友人の涼子の体験話。※名前は仮名
涼子の実家は兼業農家で、父親が米や野菜を作っている。
小学生の頃、父親に付いて山の畑へ行った時のこと。
作業を見ているのにも飽き、散歩がてら木立の中を歩いていると、見知らぬ少年に会った。
狭い田舎で知らない顔などない。
土地の者でないとしても、最寄りの家からでも車で15分の場所に、子供だけで来るとは思えない。
林道は一本道で、他の車があれば気付くはず。
それに、少年はえらく昔風の服装だった。
幽霊?とも思ったが、不思議と怖くはなかったそう。
少年は「ヨシヒロに仕事をやめてすぐ帰れと言え」、そう言って急斜面をスイスイと登って消えた。
ヨシヒロとは、涼子の父親の名前。
なぜか涼子は少年を神様と思い込んだそうで、慌てて父親の元に走った。
信じてくれるかな?という心配は杞憂で、「母さんとお姉ちゃんは家だったな・・・」と父は呟き、急いで帰り仕度をした。
家に戻ると、母親と姉が出かけて幾らも経たないのに戻った二人を不思議そうに見つめた。
父親は一息ついてから、「涼子が兄ちゃんに出会って帰るように言われた」と母親に言った。
曰く、涼子が見たのは幼くして死んだ父親の兄らしく、彼は時々現れては父親に何かを告げるそう。
お告げは良い事もあれば悪い事もあり、曖昧な時もあれば明確な時もあるという。
涼子の姉妹が生まれる時も、その少年、つまり伯父は現れたという。
姉の時は「早く帰れ」と曖昧なものだったそうだが、涼子の時は「明日に生まれる子は男じゃないが最後の子だ。大事にしろ」と言われた。
病院は胎児の性別を告げなかったが、両親は漠然と男だと思い込んでいた節があったそう。
翌日に涼子が生まれ、同時に「これ以上の出産は勧められない」と医師は告げた。
そして今回の件。
一体何だ?悪い事でなきゃいいが・・・。
両親は真顔で話し合った。
しかし何事もなく一日が過ぎ、翌朝になるとまた父親は山の畑に向かった。
畑に着くと、目の前の光景に驚いた。
前日に父親が作業をしていた場所には、地滑りで倒れた大量の大木が横たわっていたそう。
(終)