その山では水筒を空にしてはいけない
山仲間いわく、”水筒を空にしてはいけない山”があるのだという。
そこには『カサフカシ』と呼ばれる物の怪がいて、空の水入れを見つけると、その中身を濁った泥水で満たしてしまうからだと。
水が少しでも残ってさえいれば、カサフカシは何も悪さをしないのだそうだ。
彼はそこに登っている時、うっかりと水筒を空にしてしまった。
しかし、いつまで経っても水筒は空のままで、一向に満たされる様子はない。
「ま、単なる言い伝えだしな」
そのまま無事に山を下りたのだが、家に帰ると水筒が重くなっていた。
一体いつの間に?
不思議に思いながら中身を確認すると、嫌な臭いのする泥水で一杯にされている。
「久しぶりに人が来たのでカサフカシも頑張っちゃったのかな」
そんなことを考えた。
しばらく前に再びその山に登ったらしいが、その時はワザと水筒を空にしてみた。
しかし水筒に異変はなく、結局は家に着いても空のままだった。
「カサフカシ、もう居ないのかな」
少し寂しくそんなことを考えたという。
(終)
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