犬に霊が取り憑き命を奪おうとしている
これは、『除霊』にまつわる話。
たまに他の寺院から助っ人を頼まれる事がある。
大抵は大きな法要の準備や出仕なのだが、その時はいつもと違っていた。
法要を終えてそこの副住職と一息ついていると、住職がやってきて「急にすまないが祈祷を行うから出てくれないか?」と頼まれた。
別に断る理由もないので引き受け、副住職と一緒に法要の準備をしているのだが、一向に祈祷を受ける人が来ない。
住職に聞いてみたら、実はこの祈祷を受ける人は檀信徒で、しかも自称霊感持ち。
祈祷内容は「犬に霊が取り憑き命を奪おうとしている。今すぐお経をあげてほしい」との事。
いわゆる、遠隔祈祷(という言葉があるか知らないが)だった。
この時に私が一番最初に思ったのは、「アホくせぇ・・・」の一言。
一緒に聞いていた副住職も、「まいったな、こりゃ・・・」みたいな顔をしていた。
その後も法要準備ができるまで、「なんでそんな事に付き合う必要があるのか」、「そんなので良くなるなら医者なんていらないだろう」等、副住職と一緒に言っていたが、どんな事でも仕事は仕事なので準備を終えて祈祷を行った。
しかし、お経を唱えていくうちに、御宝前に薄いモヤのような膜がかかっている事に気付いた。
「あれは何だろう。線香の煙にしては広がりすぎるし、ニオイもしてこない」
そう思っていたが、モヤの中に僅かだが“半透明の着物を着た古い時代の女性”が見えた。
「うっそぉ!?さっきの話は本当なのか!?」
疑心暗鬼になりつつお経を唱えて祈祷を行うと、モヤが晴れていつもの御宝前に戻った。
祈祷を終えて控室に下がってくるや、副住職と一緒に「見たか御宝前!?」、「おお、見た見た!」、「あれは何だったんだ?」と言い合っていると住職がまたやってきて、「犬は息を吹き返したそうだ」と言ってきた。
住職にも御宝前の女性を見たのか尋ねると、「そりゃ当然見えたさ。大体本当に霊が取り憑いていないのなら、わざわざ祈祷なんてするわけないだろ」と返された。
(終)