自殺した社長の話になると

携帯電話

 

これは、ある土建屋の事務長と話し中でのこと。

 

寺から法事を頼まれて行った時、たまたまその法事に参列していた土建屋の社長と仲良くなった。

 

きっかけは土建屋の仏教に関する質問に、私の回答が気に入ってもらえたらしい。

 

その後も何度か土建屋の近くに寄ることがあったが、社長に挨拶をしていこうと立ち寄っても、忙しいのか社長は留守が多かった。

 

そこで代わりに、この会社のナンバー2である事務長が対応してくれるのだが、何故か気に入ってもらえた。

 

この様なことが何回か重なるうちに、社長よりも事務長と話す機会が多くなり、「何かあったらよろしく」と事務長とも連絡先を交換した。

 

ある日の夜に事務長から電話があり、会社の経営についての相談を受けていた。(実際は会社への愚痴を聞かされていた)

 

 

私は土建屋ではないので、ある程度の常識的な範囲でのアドバイスをした後、事務長が不意に「そう言えば話変わるけど・・・」と切り出してきた。

 

「何でしょうか?」

 

「〇〇土建の社長って知ってるよね?」

 

「この前お伺いした時にいらっしゃった方ですよね。確か一人親方で、この前の工事を手伝ったお金を受け取りに来ていた・・・」

 

「あの人、自殺したよ」

 

「えっ!そうなんですか。それは知りませんでした」

 

当時は民主党政権で公共工事を減らすとかで、土建屋も不景気だったらしい。

 

「まあ、仕事が減ったのは確かだけど、それだけじゃないんだけよね」

 

そう言って色々と話してくれた。

 

詳細は言えないが、仕事以外にも色々な案件が重なったことが原因らしい。

 

そんな話をしていると、私がいる部屋の窓から「コンコン」と窓をノックする様な音が聞こえた。

 

2~3回聞こえたので、虫か何かが窓にぶつかっているのかなと最初は思っていたのだが、よく考えると夜なので窓は雨戸をしてあり、窓に虫がぶつかるわけがないのだ。

 

うーん、一体この音は何だろう、と考えながら電話をしていると、自殺した社長の話になると音がすることに気がついた。

 

あ、これ社長がこっちに来てるな、と考えた私は事務長にこう切り返した。

 

「もう社長の話はやめた方がいい」

 

「何故?」

 

「おそらく社長がうちに来てる」

 

私の口調が変わったことに気づいた事務長は、「わかった。じゃあ、お休み」と言って電話を切った。

 

すると、窓からのノック音は聞こえなくなった。

 

次の日、朝のお勤めで社長の冥福を祈った。

 

(終)

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