まだアイツと遊んでいるのかもしれない
※名前は全て仮名
これは十数年前、小6の夏休み頃の話。
地元はかなりの田舎で、滅多に観光客なんかが来るような所ではなかった。
そのせいか、年寄りはよそ者を毛嫌いし、昔ながらの風習だとか何とか、意味のわからないことをよく言っていた。
夏休みになり、俺は近所に住むアキラとよく二人で遊んでいた。
近くには川が流れていて、釣りをしたり泳いだり、毎日のように朝から晩まで飽きずに遊んだ。
7月も終わる頃、いつものようにアキラと川へ遊びに行った。
朝の8時頃だったと思う。
俺たちが秘密のポイントと呼んでいた釣りの穴場に、誰かがいるのがわかった。
対岸からその誰かを見ると、麦わら帽子を被っている同い年ぐらいの男の子に見えた。
「お前は誰じゃ!何組の奴じゃ!」
アキラは大声で発する。
だが、その子は俯いて竿を垂らしているだけ。
俺たちは川の向こう側に周り、アキラがその子に話かけた。
「あれ?見かけん顔じゃのう。転校生か?まぁええ。俺はアキラ、こいつはコウキって言うんじゃ。よろしくな!」
すると、その子は小さな声で「マサオです。よろしく」と言った。
肌は白く、第一印象は線の細い奴と思いながらも、すぐに友達になり、一緒に遊び始めた。
母と祖母には新しい友達ができたとニコニコしながら話した。
しばらくしてから、いつものように三人で川で遊んでいると、「おお~い」と原付に跨った父がこちらに向かって手を振っていた。
そして、「もうすぐ暗くなるけぇ、二人とも早よぉ帰れよぉ」と、そう言ってそそくさと帰って行った。
“二人”と言う父の言葉に俺は、アキラかマサオのどちらかが見えなかったんだろう、と深く考えなかった。
空が夕陽に染まりだし、三人で帰ることにした。
ふとマサオが、「僕、もっと遊びたいなアキラ君。コウキ君、もう少しだけ遊ばない?」と言う。
だが、俺は父に怒られるのが怖くて誘いを断り、二人を残して走って家に帰った。
家に着くと、中が騒がしかった。
「ただいま~」と言って靴を脱ごうとしていると、近くにいた父が驚いた顔をして、泣きながら俺の頬にビンタした。
突然のことで頭が混乱している中、すぐさま母と祖母も駆け寄って来て、泣きながら俺を抱き締めた。
近所の人も口々に良かった良かったと泣いていた。
話を聞くと、“夜になっても帰って来ない俺たちに捜索願いが出されていて、3日経って諦めかけた頃に俺が帰って来た”という。
俺は、父から川で声をかけられてからまっすぐ家に帰って来た、と一生懸命に説明した。
それに、アキラとマサオも少し遊んでから帰って来ているはずだ、と。
次の瞬間、父はハッとした顔をして、「マサオ!?誰にそんなこと聞いてきたんぞ!?」と言う。
父は血相を変え、俺を連れていつも遊んでいた場所まで行った。
ちょうどその時、そこにアキラの両親も来ていた。
俺は指を差しながら説明していると、ドッボーンッと暗い川の中で大きな音がした。
懐中電灯のライトを向けると、川面に波紋だけが広がっていた。
直後、「アキラー!!」と叫ぶ大きな声がした。
川の対岸を見ると、アキラがこちらに向かって手を振っている。
しかし、アキラの両親が川に飛び込み対岸に届く寸前に、アキラは川に飛び込んでそれきり浮かんでこなかった。
数日後、祖母にマサオとは誰かを聞いた。
マサオは忌み嫌われた子。
そうとしか教えてくれなかった。
ただこの世の者ではないと言って、「もうこの話はするな」と言われた。
そんなことから十数年が過ぎた今も、アキラは帰って来ていない。
もしかしたら、まだマサオと遊んでいるのかもしれない。
(終)