金魚鉢を頭から被った女の幽霊
大学の友人が、親元から離れてワンルームに引っ越すことになった。
そして、大学の近くに格安の物件を見つけたらしい。
しかし格安には理由があり、前の住人がその部屋で自殺した『事故物件』だということだ。
オカルト好きの友人は逆に興味を惹かれ、一も二もなく入居を決めた。
異変は入居初日から起こる
私は友人に請われて引越しの手伝いでその部屋を訪れることになったが、どこにでもあるようなワンルームだった。
ただ何故か、金魚鉢が一つだけ床にぽつんと置かれていた。
友人が下見に来た時には無かったものらしいが、友人は特に気にすることもなく、「インテリアにでも利用させてもらうよ」と笑っていた。
引越しの手伝いをした後、友人宅でお酒を飲んで、そのまま泊まることにした。
夜中に尿意を覚えて目を覚まし、トイレで用を足して戻ってみると、友人の枕元に女の人が立っていた。
白いワンピースを着た女が、友人の寝顔を見下ろしている。
そして何故か、その女の頭には金魚鉢が被せられていた。
私が非現実的な光景に固まっていると、女はこちらを振り向き、被っていた金魚鉢を床に置いてスッと消えていった。
翌日その話を友人にすると、「初日から幽霊が出るとは幸先がいいね」とはしゃいでいた。
その後、その女は友人の前にも何度か姿を現したそうだが、金魚鉢を被ってこちらを見てくること以外には何もしないという。
さらにしばらく経った後、友人はあの金魚鉢でランチュウ(金魚の一種)を飼い始めた。
「いい加減、あの女幽霊にも飽きてきたからね。金魚鉢に水とランチュウが入っていれば、うかつに被ることも出来ないだろう」ということだ。
久しぶりに友人の部屋に呼ばれて行ってみると、テーブルの上にはランチュウが泳ぐあの金魚鉢があった。
その日も友人宅に泊まったが、あの女幽霊は出てこなかった。
しかしその数日後から、友人は大学に顔を出さなくなった。
連絡も付かず、部屋に行っても何の返事もない。
翌日、友人の家族が合鍵で部屋に入ると、友人は金魚鉢に顔を突っ込んで死んでいたという。
警察の判断は『自殺』。
葬式の時に友人の家族に聞いた話だと、前の住人も金魚鉢に顔を突っ込んで死んでいたということだった。
しかし、その前の住人は女の人ではなくて、30代のサラリーマンだった。
その後の金魚鉢の行方は知らないが、ランチュウは奇跡的に生きていて、友人の家族が引き継いで飼っているそうだ。
(終)