林間学校での肝試し
これは私が小学生時代の話です。
私の通う小学校では、4年生の夏に一泊二日で
林間学校に泊まり合宿授業を受ける行事がありました。
体育館施設も備える比較的大きな建物でしたが、
山の中にポツンと一軒きり。
周囲は何もなく、
寂しい場所にある建物でした。
この合宿で恒例となっていたのが、
俗にいう肝試しで、
何年も続く伝統行事でもありました。
ろうそく1本灯されただけの部屋に生徒が集まり、
教頭先生のする怖い話を聞いた後、
各班、肝試しのルートとなっている山道を歩かされるのです。
その日の天気は雨。
かなり強く降っていたことを覚えています。
小雨の場合は決行、ということは聞いていましたが、
これだけ雨足が強かったら、
「きっと体育館でリクリエーションして終わりだ」
生徒の誰もがそう思っていました。
しかし肝試しは予定通り催行される事に。
どよめきつつも真っ暗な一室に集められ、
教頭先生の臨場感たっぷりに話す怪談話を聞くことになりました。
話を聞いた後は雨合羽を着用して、
いよいよ出発。
各班が途中でかち合わないよう、
一定の時間をおいて送り出されます。
中には怪談話を聞き終えた時点で
半泣きの子も数人いました。
出発の際も、道を間違えたら墓場に着くよ。
(肝試しのルートは一本道ではなく、
二股に分かれている箇所がありました)
とか、崖があるから落ちないように気を付けて、
と引率の先生方から散々脅かされました。
今となってはその脅しが本当だったかどうか
定かではありませんが、
山道を歩くのに4、5人でひとつの班に対して、
支給されるのは小さな懐中電灯たった1つ。
周りに民家も何もなく、
森の中を抜けるルートは当然のことながら街灯一つないので、
万一懐中電灯を落とすと真っ暗闇になってしまいます。
実はこの山は古くは有名な合戦場だったところで、
至るところにおびただしい血が流された山でもありました。
どこそこで落武者の霊を見た、
という噂はよく聞く山でもあったので、
否が応にも恐怖感が募ります。
私の班にはもう1人女の子がいたのですが、
怖さからか私の腕を掴むと固く握って離しません。
掴まれた部分がすぐにじわりと汗をかくのがわかりました。
大雨の中のこと、合羽を着ていても
用をなさないくらい雨が入り込んできて、
ぬかるんだ道を歩く足元はすぐに泥だらけになってしまいました。
現在なら保護者からクレームが来そうなものですが、
所々に脅かし役と見張りを兼ねた先生方がいらっしゃるので、
そう危険とは思わなかったのかもしれません。
ところが不思議なことに、脅かし役の先生に
誰一人として会わなかったのです。
そういった先生の存在は聞いていたのに・・・。
途中たまらなくなったのか、私の腕を掴んでいた女の子が
大きな声を上げて泣き出してしまいました。
みんなでその子をなだめつつ、
雨の降りしきる真っ暗な森の中、
全身ずぶぬれになりながら道を進むと、
少し離れた所でちらっと白いものが見えたのです。
シーツを被ったように見えたそれは、
ふっと闇に消えました。
その時思ったんです。
「あ、脅かし役の先生だ!」、と。
そう思うと、なんとなく安心して
そのまま歩き続けたのですが、
行けども行けどもその脅かし役の先生が出てきません。
肝試しのルートはせいぜい10分程度のもので、
いくら雨で見通しが悪く、歩くのに手間取ったとはいえ、
そんなに大幅に遅れるものではありません。
すでに10分は経過していたと思います。
しかも分岐点があるはずなのにそれも無い。
「いよいよ道に迷ったのでは」、という思いが
皆の中によぎった時、
かまを担いだ合羽姿の男性に追い抜かれました。
脅かし役の先生とも違います。
見知らぬ人でも、人に出会ったというのは心強く、
思い切って声を掛けて宿舎への道を尋ね教えてもらいました。
案の定、道を間違えており、
元来た道を引き返したのですが、
私が白いものを見た場所が実は分岐点に当たる場所で、
暗すぎて全員見落としていたのです。
後から来た班とも合流し、一気に元気を取り戻して
無事宿舎に帰り着くことができました。
無事には帰れましたが、
疑問点がいくつかあります。
「なぜ私達の班は脅かし役の先生に、
1人も会わなかったのだろうか」
というのがひとつ。
(他の班の人は先生に脅かされたと言っていました)
「肝試しは夜の20時頃でしたが、
そんな時間、しかも雨の中、
懐中電灯も無しで歩いていた私達が会った男の人は、
かまを担いで何をしていたのだろう」
ということ。
そして何より私の見た白いものの正体。
あのまま真っ直ぐ道を進み続けていたら
どうなっていたのでしょうか。
全ては謎で何もわかりませんが、
夏になると今でもこの時のことを思い出すのです。
(終)
かつぐサイズの鎌ってそうとうでっかいよね。
死神?日本の死神は鎌無いかな?
日本は死者の胸に鎌置くんだっけか。