死因
俺が出張で東京のビジネスホテルに
泊まった時の話だ。
ホテルに到着して一休みしようとした時、
たまたま路地を挟んだ向かいの同じような
ビジネスホテルを見た。
俺の部屋とちょうど同じ位置のひとつ下の階から、
男が飛び降りようとしていた。
俺は急いで携帯を持って部屋を出た。
なぜならその男は大学にいた時の同期だったからだ。
なるべく早く歩きならがら、
そいつの携帯の番号に電話をかける。
「もしもし、久しぶり。○○だけど」
「・・・ああ、なんだお前か。いま立て込んでるんだが、
後からまたかけ直していいか?」
「いや、今じゃなきゃ駄目なんだ」
そうして何気ない会話をしながら、
向かいのビジネスホテルに入った。
ちょうどフロントは不在で、
階段を使ってその部屋に向かう。
ホテルの造りも似ていたので、
部屋はすぐにわかった。
急ぎながら、しかし相手に気づかせないように
会話を続けるのが難しかったかな。
そうして、
あいつの部屋の前まで来たところで言った。
「あの頃は楽しかったな」
「・・・ああ、本当にな。あの頃に戻りたいよ・・・」
幸いなことに部屋の鍵は掛かっていなかった。
「まったくだ」
その言葉と共に俺は部屋に突入して
ベッドルームに向かった。
結果からいうと間に合わなかった。
男はすでに飛び降りた後だった。
問題はその男の死因が、
ベッドの上から飛び降りて死んだ首吊り自殺だったことだ。
(終)