ひどく疲れていた時に起った怪異
その日、
私は酷く疲れていた。
家に帰るなり、
風呂にも入らず
布団に潜り込んだ。
あまりにも疲れていた為、
すぐに眠れるかと思ったが、
逆に目が覚めてしまって、
なかなか寝付けずにいた。
「明日も早くから仕事だ。
目を瞑っていれば、
そのうち寝れるさ。
仮に寝れなくても、
横になってるだけで
違うだろうし」
・・・と、
とりあえず布団の中で
横になることにしました。
布団に入って、
どの位の時間が
経過しただろう・・・
急に、私の身体は
動かなくなった。
身体を起こす事は勿論、
手や足も動かす事が出来ない。
「金縛り!?」
今まで金縛りというものを
経験した事が無い為、
多少は焦ったが、
極度に疲れていると、
脳は覚醒しているが
肉体のみが睡眠の状態になり、
金縛りのような現象が
起こる事がある。
という情報を
耳にした事があったので、
さほど危機感は
感じなかった。
少し冷静になったところで、
身体のパーツを徐々に
動かしてみる事にした。
まずは、目。
ゆっくりと瞼を開く。
思いのほか、
すんなり開く事が出来、
天井が見えた。
次は、指。
と思ったところで、
視界の下の方、
つまり、
私の足の辺りに、
黒い塊があった。
「?」
不思議に思い、
可能な限り、
視線を下に向ける。
「・・・!?」
その黒い塊の正体は、
人の頭だった。
しかも、見知らぬ女。
白い顔・・・。
生きている人間から
感じられる精気というものが、
一切感じられぬ顔が
そこにあった。
私は一人暮らしで
彼女もいない。
完全に部屋の中には
私しか居ないはずなのに。
私があまりの恐怖で
パニックに陥っていると、
何とその女は段々と、
私の顔の方に
近づいて来る。
「ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ・・・!」
私は咄嗟に目を閉じ、
早く、この恐怖から
逃れたい一心で、
お経を頭の中で
唱え始めた。
「ナムアミダブツ、
ナムアミダブツ・・・」
10分は経過しただろうか。
私は恐る恐る、
目を開けてみた。
女の顔があった。
そして、女は私に
こう呟いた。
『お経なんて効かないよ』
(終)