カメラマンがモデルを撮影中に
アメリカ人のカメラマンと
若い女性のモデルが、
南アフリカの湖に写真集の
写真を撮りに行った時の話。
その湖の手前は平地だが、
奥にはかなり高い
断崖絶壁があり、
カメラマンは断崖絶壁を
バックにして、
モデルの写真を撮り始めた。
モデルの後ろに
湖と断崖絶壁、
その構図でシャッターを
押していると、
突然、ファインダーの中に、
一人の人間が湖に落ちていく
姿が飛び込んできた。
慌てたカメラマンは、
湖に落ちていく
人間の方を追いかけて
シャッターを押し続けた。
勿論、撮影は中止。
すぐに警察を呼んだが、
湖に落ちた人は助からなかった。
断崖絶壁の上から湖に
身を投げた自殺者だった。
警察の話では、
この湖は自殺の名所として
地元では有名らしい。
モデルもショックを受けていたが、
なんとか撮影を完了し
アメリカに帰った。
それから数週間が過ぎた。
現像はすでに終わっている
はずなのに、
出版元の担当者の方には
カメラマンからの連絡が無い。
痺れを切らした担当者が
カメラマンに電話して見ると、
「今回の撮影は無かった事に
して欲しい・・・」
の一言。
「わざわざ南アフリカまで
行ってそれはないだろう。
ハッキリとした理由を
聞かせてくれ」
担当者はカメラマンから
その理由を聞き出そうとするが、
なかなか答えてくれない。
偶然に自殺者を写してしまった
話は聞いていたが、
電話ではどうしようもないので、
担当者はカメラマンのオフィスを
訪ねることにした。
玄関に出てきたカメラマンの顔には、
かなりの疲労の色が出ていた。
カメラマンを問い詰めると、
「・・・分かった。
写真を見てくれ。
そして君がこの写真集を
どうするか決めてくれ」
担当者は渡された写真の束を、
一枚一枚めくって見ることにした。
そこには湖をバックに
モデルが写っていた。
かなり綺麗な湖だし、
さらに後ろの断崖絶壁も
素晴らしい。
しかし、
ある写真のところで
担当者の手が止まった。
写真の右上に、
落ちていく人の姿が写っていた。
「ああ、これが自殺者かい?
しかし、これくらいなら
どうってことないだろ?」
湖に落ちていく自殺者が
連続写真で写っていた。
やがて自殺者の体が
湖に触れそうな写真を
めくった瞬間・・・
担当者は大きな叫び声を発し、
気を失った。
その手に握られた写真に
写っていたのは、
湖から突き出た無数の手だった。
(終)