事故死した彼女に会いたくて 1/2

玄関

 

これは、

 

叔父さんがイギリスに

滞在していた時に、

 

現地のイギリス人の

仕事仲間から聞いた話だ。

 

とある青年がいたという。

 

まだ学生で、

 

同じ学年に付き合っている

彼女がいた。

 

非常に仲睦まじく、

 

お互い卒業したら結婚の約束まで

していたという。

 

だが・・・

 

ある日、

不幸が起きた。

 

彼女が交通事故で

死んでしまった。

 

彼女は歩行者で、

 

運転手の脇見運転からなる

悲劇の事故だった。

 

彼は病院に駆けつけた。

 

死因は脳挫傷で、

 

遺体は眠っているだけの様な、

本当に綺麗なものだったという。

 

彼は深く悲しみ、

絶望した。

 

葬儀は彼女の遺族らと共に、

深い悲しみの中で行われた。

 

彼は抜け殻の様に

なってしまった。

 

学校へもあまり出席せず、

 

彼女と同居していた

古いアパートに、

 

篭りっきりの生活をしていた。

 

少しでも彼女の思い出に

触れていたいが為、

 

居間、台所、風呂、玄関、

寝室、トイレに至るまで、

 

彼女との思い出の写真を置き、

何時でも目に入るようにしていた。

 

そんな彼を心配して、

 

友人達がよく部屋に出入りして

励ましていたが、

 

あまり効果は無かった。

 

2階の真上の部屋は

小さな教会になっており、

 

彼と親しく、わりと歳も若い神父も

励ましにやって来ていたが、

 

効果はなかった。

 

毎日、飢えない程度の

粗末な食事をし、

 

彼女の写真を見つめて過ごす

日々が続いた。

 

ある夜、

 

彼は子供の頃に聞いた話を

ふと思い出した。

 

『死者と必ず会える方法がある』

 

その方法とは、

 

時刻は、

深夜2時前後がよい。

 

まず、会いたい死者を

思い浮かべる。

 

その死者の遺品があれば、

なお良い。

 

家の門を開けておく。

 

ただし、

 

家の戸締りは必ず、

完璧に施錠する事。

 

遺品を胸に抱き、

ロウソク1本にだけ火を灯し、

 

部屋の灯りを消し、

 

ベッドに入り、

目を瞑る。

 

そして、死者が墓場から

這い出てくるのを想像する。

 

生前の綺麗な姿のまま・・・

 

死者は、ゆっくりゆっくり、

 

自分の家に歩いて来るのを

想像する。

 

1歩1歩、ゆっくりと・・・

 

そして、門を通り、

 

玄関の前に立つのを

想像する。

 

想像するのはそこまで。

 

そして、

 

絶対に守らなければ

いけない事は、

 

『死者が何と言おうとも、

絶対に家の中には入れない事』

 

だった。

 

扉越しにしか話せない。

 

何とも切ない事ではあるが、

それがルールらしい。

 

青年は漠然とそんな話を

思い出していた。

 

会いたい。

 

迷信だろうが作り話だろうが、

もう一度会って話したい。

 

もちろん、迷信だとは

頭では思っていたが、

 

もしも彼女と話した様に

なった気がしたら、

 

いくらか心も休まる

かも知れない。

 

と自分へのセラピー的な

効果も期待し、

 

それをやってみる事にした。

 

時刻は深夜2時の

少し前。

 

オートロックなんて

洒落た物は無いので、

 

アパートの門を開けておく。

 

生前、彼女が気に入っていた

ワンピースを胸に抱き、

 

ロウソクを灯し、

部屋の灯りを消し、

 

彼女の蘇りを想像した。

 

アパートは老朽化が激しく、

 

2階の真上の教会から、

何やら水漏れの様な音がする。

 

ピチャッ・・・

ピチャッ・・・

 

彼の部屋のどこかに

水滴が落ちているらしい。

 

そんな事はどうでもいい・・・

 

集中して・・・

 

生前の・・・

綺麗な姿で・・・

 

彼女が微笑みながら・・・

 

部屋にお茶でも飲みに

来る様な・・・

 

ドンドン

ドンドン

 

ハッと目が覚めた。

 

いつの間にか、

寝ていたらしい。

 

ドンドン

ドンドン

 

何の音・・・?

隣の住人?

 

隣人も夜型の人だから、

うるさいのかな?

 

ドンドン!!

ドンドン!!

 

・・・違う。

 

自分の部屋の玄関のドアを、

誰かが叩いている。

 

時計を見ると、

深夜2時50分。

 

こんな時間に友人・・・

とは考え難い。

 

・・・まさか。

 

さすがに冷汗が額を伝う。

 

ロウソクを手に持ち、

 

恐る恐る、

玄関に近づく。

 

叩く音が止んだ。

 

(続く)事故死した彼女に会いたくて 2/2へ

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