安い中古車を購入した矢先に 1/2

カーナビ

 

今から二年ぐらい前、

 

お得意さんの四十九日に

出向いた時に聞いた話。

 

入社以来、

仕事にかまけていた私は、

 

青森出張後にようやく、

 

休暇をもらうことが

出来る事になった。

 

その為、これを機会に

中古車を買う事に決め、

 

チェーン展開している

中古車屋に行き、

 

物色していると、

 

黒っぽい制服を着た

店員がやって来て、

 

色々と案内してくれた。

 

(客が私しか居ないので

暇なのだろう・・・)

 

そう思った私は、

 

時間をかけて交渉しても、

安く中古車を購入する事に決めた。

 

店員はじっと私を見て、

一台の車を案内してくれる。

 

それは、

 

店の裏の工場のような

場所に置いてあり、

 

これから展示する予定

だと言う。

 

まだ値段を公式に付けて

いないから安く出来る、

 

と言うので、

 

早速契約する。

 

チェーン展開している店だから、

その点は信用していた。

 

唯一、その店員が私をじっと

見ているのが気に掛かったが、

 

変な奴だとしか思わなかった。

 

まあ、どこにでも変な奴は

いるものだし、

 

事によったら私も、

 

こいつから見れば変な奴

なのかも知れなかったし・・・。

 

翌日、会社に乗っていくと

同僚に羨ましがられたが、

 

「いまどきナビも付いてないのか?」

 

と言われては、

 

急に欲しくなってきた。

 

前日、

妻にその旨伝えたら、

 

「ろくに遠出もしないくせに無駄!」

 

の一言で

却下されていたが・・・。

 

そういう訳で、

 

妻もついでに青森まで連れて

行くことで交渉は成立し、

 

会社に出入りしている業者に、

 

ナビのカタログを持って来て

もらう事にした。

 

自分で店に行けばいいのだが、

何しろ仕事が忙しい。

 

翌々日、

 

会社に来たのは

顔見知りの業者ではなく、

 

見知らぬ男だった。

 

彼は、

 

いつもの業者が急な用件で

来れなくなった為に、

 

代理として来たと述べた。

 

私は渡されたカタログを見て、

 

周りの同僚等にも聞きながら

買おうかと思っていたが、

 

その業者が言うには、

 

型が古いので良ければ

セール中なので、

 

半額で購入出来ると言う。

 

また、

 

「Aさんはお得意さんなので、

さらに割り引きます」

 

と言うので、

 

まあ、信頼出来る業者だし、

 

妻にも嫌味を言われないだろう

と言う事で、

 

そのお勧めのナビを購入した。

 

妻は私の運転技術に

疑わしそうだったが、

 

運転には自信はある。

 

実を言うと、

 

学生の頃は親の車に

乗っていたのだが、

 

ちょっとした事故を起こして以来、

乗るのを止めたのだ。

 

事故と言っても接触で、

 

相手も軽傷という事で、

弁護士を立てて示談にした。

 

入社後はさすがに

社用車には乗っているが、

 

自分の車を初めて持てた事で、

浮かれていたのかも知れない。

 

高速を下りた辺りから、

ナビに従って運転する。

 

初めて使うナビは、

 

地図の上を矢印が動く

というもので、

 

少し見難いのが玉に瑕(きず)

 

だが、方向音痴の妻に

ナビしてもらう事に比べれば、

 

天と地ほどの差があるだろう。

 

順調にナビに従って

走っていると、

 

いつの間にか霧が

濃くなってくる。

 

道は少しずつガタガタと言い出し、

荒れてくるように感じるが、

 

田舎なんてこんなものだろう

と思い、(失礼・・・)

 

余り気にせずに

運転を続ける。

 

妻は終始無言で、

手元の地図を見ている。

 

方向音痴のくせに、

 

ナビをやりたがるから

一応持たせておいたが、

 

結局使う事がないので

拗ねていると思っていた。

 

霧が深くなる中で、

 

フォグランプを点けたまま

私は運転を続ける。

 

妻が心配そうに運転を

控えるように言うが、

 

私にはその言葉が

遠くに聞こえる。

 

非常に遠くから誰かが何か

言っている様に聞こえた。

 

唯一、ナビの声だけが

クリアに聞こえてくる。

 

もっとスピードを出しても大丈夫。

 

私は何故かその思いに

囚われていたと思う。

 

「止めなさいよ!」

 

妻が顔面蒼白になりながら、

私の頬を強く叩く。

 

目の前が一瞬暗くなり、

 

その瞬間、

我に返った。

 

急ブレーキを踏み、

 

荒い息をしながら、

暫く二人で見つめ合う。

 

一瞬の沈黙。

 

そして、

 

しわがれた暗い声が、

唐突に車の中に響き渡る。

 

『なんで言うことを

聞かないんだよ!』

 

妻と私は硬直した。

 

(続く)安い中古車を購入した矢先に 2/2へ

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