深夜3時の非常階段にて 1/3

非常階段

 

今から数年前、

 

職場のビルで体験した

出来事です。

 

その頃の僕の職場は

トラブル続きで、

 

大変に荒れた雰囲気でした。

 

普通では考えられない

発注のミスや、

 

工場での人身事故が

相次ぎ、

 

社の皆がクレーム処理に

追われていました。

 

朝出社してから

夜中に退社するまで、

 

電話に向かって

頭を下げ続ける日々です。

 

当然、僕だけでなく、

 

他の同僚のストレスも

溜まりまくっていました。

 

その日も、

 

事務所の鍵を閉めて

廊下に出た時には、

 

午前3時を回っていました。

 

O所長とN係長、

 

他二人の同僚と僕

を合わせた5人です。

 

皆、疲労で青ざめた顔をして、

黙りこくっていました。

 

ところが、

 

その日はさらに気を滅入らせるような

出来事が待っていました。

 

廊下のエレベーターの↓ボタンを

どれだけ押しても、

 

エレベーターが上がって

来ないのです。

 

なんでも、

 

その夜だけエレベーターの

メンテナンスのために

 

通電が止められたらしく、

 

ビル管理会社の手違いで、

 

その通知がうちの事務所にだけ

来ていなかったのでした。

 

これには、僕も含めて

全員がキレました。

 

ドアを叩く、蹴る、

怒鳴り声をあげる。

 

まったく大人らしからぬ

狼藉の後で、

 

皆さらに疲弊してしまい、

 

同僚のSなんかは

床に座り込む始末でした。

 

「しょうがない、

非常階段から下りよう」

 

O所長が、

 

やがて意を決したように

口を開きました。

 

うちのビルは、

 

基本的にエレベーター以外の

移動手段がありません。

 

防災の目的で造られた、

 

外付けの非常階段が

あるにはあるのですが、

 

浮浪者が侵入するのを防ぐため

内部から厳重に鍵が掛けられ、

 

滅多なことでは開けられることは

ありません。

 

僕もその時に初めて、

 

階段に続く扉を開けることに

なったのです。

 

廊下の突き当たり、

 

蛍光灯の明かりも届かない

薄暗さの極まった辺りに、

 

その扉はありました。

 

非常口を表す緑の明かりが、

ぼうっと輝いています。

 

オフィス街で働いたことのある方なら

お分かりだと思いますが、

 

どんなに雑居ビルが密集して

建っているような場所でも、

 

表路地からは見えない「死角」

のような空間があるものです。

 

ビルの壁と壁に囲まれた

谷間のようなその場所は、

 

昼間でも薄暗く、

街灯の明かりも届かず、

 

鳩と鴉の寝床になっていました。

 

うちの事務所は、

ビルの7階にあります。

 

気乗りしない気分で、

僕がまず扉を開きました。

 

重い扉が開いた途端、

 

なんとも言えない異臭が

鼻を突き、

 

僕は思わず咳き込みました。

 

階段の手すりや

スチールの踊り場が、

 

まるで溶けたロウのようなもので

覆われていました。

 

そして、

 

そこから凄まじく嫌な臭いが

立ち上っているのです。

 

「鳩の糞だよ、これ・・・」

 

同僚のN子が泣きそうな声で

言いました。

 

ビルの裏側は、

鳩の糞で覆い尽くされていました。

 

まともに鼻で呼吸をしていると、

肺が潰されそうです。

 

もはや、

暗闇への恐怖も後回しで、

 

僕はスチールの階段を

下り始めました。

 

すぐ数メートル向こうには、

隣のビルの壁がある。

 

まさに、「谷間」のような

場所です。

 

足元が暗いことも

もちろんですが、

 

手すりが腰の辺りまでの

高さしかなく、

 

物凄く危ない。

 

足を踏み外したら、

 

落ちるならまだしも、

 

壁に挟まって宙吊りに

なるかも知れない・・・。

 

振り返って同僚たちを見ると、

皆一様に暗い顔をしていました。

 

こんなツイテいない時に、

 

微笑んでいられるヤツなんて

いないでしょう。

 

僕も同じ顔をしているのかと思うと、

悲しくなりました。

 

カン・・・

カン・・・

カン・・・

 

靴底が金属に当たる

乾いた音を響かせながら、

 

僕たちは7階から非常階段を

下り始めました。

 

僕が先頭になって、

すぐ後ろにN子。

 

次いで同僚S、O所長、

N係長の順番です。

 

(続く)深夜3時の非常階段にて 2/3へ

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