誰が俺を呼んだんだよ!

洗面台

 

俺が16歳頃の話。

 

当時両親が離婚し、なかなか貧乏な環境になった為、俺は高校へは行けずガテン系で働いていた。

 

その日、夜8時頃に仕事から帰宅し、夕飯を用意したところでウトウトしてそのまま寝てしまった。

 

そして夜中の2時過ぎ、うるさくて目を覚ました。

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近付いて来るモノ

窓のすぐ外を電車でも走っているかのような「ゴオォー!」という爆音が聞こえていた。

 

洒落にならないほどうるさかったので、すぐに窓を開けて確認したが何も見えない。

 

駅のホームにいるような、目の前からの爆音。

 

訳が分からず暫く外を眺めていると、電車が通り過ぎるような音が左へ移動し、ゆっくりと小さくなっていった。

 

その代わりに、今度は「シャリーン」と鈴のような音が聞こえてきた。

 

それは右方面、遠くの方から次第に近付いて来るのが分かる。

 

段々と近付いてくる。

 

もう、すぐそこだ!

 

「シャリーン」

 

「シャリーン」

 

今、間違いなく視界に入っているという距離感で聞こえる音。

 

が、何も見えない。

 

空を見上げたり、窓から身を乗り出す勢いで音を放っているものを探すが、一向に見当たらない。

 

「シャリーン」

 

「シャリーン」

 

視界には何もないが、その鈴のような音は目の前を左へ過ぎていった。

 

結局、眠れずに一晩考えていた。

 

「もう朝5時か、そろそろ準備しなきゃ」と洗顔していたら、台所の方から「○○~」と母が俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。

 

体をくの字に曲げたまま、顔を上げずに「なーにー?」と言うも、聞こえてないのか何度も「○○~」と繰り返す。

 

「だから、なーにー?」と怒鳴り気味に答えるが、まだ聞こえてないのか俺の名前を繰り返す。

 

ちょっとキレ気味に「なんだよ!!」と、体をくの字に曲げたまま上目遣いで顔を上げ、タオルで拭きながら答えた。

 

その瞬間、俺は固まった。

 

正面の鏡越し、俺の肩に白髪のザンバラ頭で白装束のような服を着て俯いている老婆が見えた。

 

俺は叫んだと同時にダッシュで外に逃げ出た。

 

マンションを見上げながら、落ち着いて考えた。

 

離婚した母は出て行ってるから居るはずがないし、姉も寮で生活していたので家には居ない。

 

「誰が俺を呼んだんだよ!」と、外に出てから真っ青になった。

 

しばらくして父親を残して引っ越すが、忘れ物を取りに戻った時、住んでいた家がとんでもなくカビ臭い事に気付いた。

 

(終)

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