家の中で母だけが感じていたもの
梅雨が明けた初夏の頃、
夜遅くに帰ると、
「あれ?今帰って来たの?」
と母が言った。
そうだと答えると、
「ふうん・・・」
と首をひねってから、
私に背を向けた。
何か合点がいかない
ようだった。
多少気になったものの、
ご飯を食べ終わる頃には、
そんな事を忘れてしまった。
それから数日後、
夜遅くに帰ると、
「あれ?今帰って来たの?」
と母が言った。
そうだと答えると、
「ふうん・・・」
と首をひねってから、
私に背を向けた。
今日も何か合点が
いかないようだった。
そして、秋。
夜、居間で
くつろいでいた私は、
頭上から聞こえる
微かな音に気付き、
天井に目を向けた。
台所にいた母が、
炊事の手を止めた。
音と気配が、
二階の部屋をややゆっくりと
歩き回っていた。
ちゃんと人の体重が
乗った音。
「・・・これかい?」
と私は尋ね、
「そう・・・これ・・・」
と母は答えた。
ちなみに、
家はマンションのような
集合住宅ではなく、
孤立した一戸建て。
(終)
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