別れた女からの連絡 1/2

頭を抱える彼女

 

五年間、

付き合った女性がおりました。

 

五年という月日は、

今思えば長いようであり短い期間でした。

 

四年目が過ぎたあたりから、

彼女は結婚を口にするようになりました。

 

付き合い始めた当初から、

 

私も将来は結婚しようと

言っておりましたし、

 

いつかは結婚するものと

思ってはいたのです。

 

しかし、

 

当時の私は大学を卒業したばかりで、

就職難民と呼ばれる身でした。

 

我が身一つの未来も見えず、

どうして結婚など出来ましょう。

 

彼女は自分も働くからと

申しておりましたが、

 

男のわがまま。

 

彼女と、

いずれ出来るだろう子供を、

 

私一人で養っていける自信が付くまでは、

結婚する気にはなれません。

 

私の気持ちも分かって欲しいと

何度も説得しましたが、

 

互いの意見は食い違うばかりです。

 

『愛しているから結婚したい』

「護りたいから待って欲しい」

 

皮肉なことに、

それが別れる原因となりました。

 

愛を紡いだ口で互いを汚く罵り合い、

 

『二度と顔も見たく無い』

 

という彼女の捨て台詞で、

二人の関係は終わったのです。

 

それから半年ほど経った頃、

彼女から電話がありました。

 

やり直したいと。

 

忘れられない愛していると、

泣きながら訴えるのです。

 

しかし、

薄情と思われるかも知れませんが、

 

最後の大喧嘩で私の気持ちは

すっかり覚めていました。

 

寄りを戻すつもりは無いと告げて、

電話を切りました。

 

三日後に再び着信がありました。

 

今度は、

会って欲しいと言うのです。

 

会って話せば寄りが戻ると

思っているのでしょう。

 

優柔不断で流されやすい私は、

いつも彼女に決断を任せていました。

 

そんな私の性質を知っている

からこその誘いなのです。

 

もちろん断りました。

 

次の電話は二日後でした。

 

三度目ともなるとウンザリしてきます。

 

着信表示を見るのさえ嫌な気分で、

 

クッションの下に携帯を押し込んで

居留守を使うことにしました。

 

設定通りに20コールで切れたかと思うと、

またすぐに掛かってきます。

 

何度も何度も何度も何度も・・・

 

耐え兼ねて出る決心をして

携帯の画面を見ると、

 

履歴は30を越えていました。

 

ここまでくると、

イヤガラセとしか思えません。

 

ひとつ説教でもしてやろうと、

受話ボタンを押した時です。

 

『なんで出ないのよ!』

 

耳に当てなくとも聞こえるような、

絶叫でした。

 

情けない話ですが、

 

私の怒りは彼女の声で

萎んでしまいました。

 

怒りを鎮めなければ・・・

それだけを考えました。

 

ふと思いついた嘘を口にします。

 

「携帯を忘れて出掛けていて、

今さっき帰ってきたところなんだ」

 

そして出来るだけ優しい声で、

どうしたのか訊ねました。

 

ククク・・・という押し殺した声に、

 

泣いているのかと思いましたが、

違ったのです。

 

彼女はケラケラと笑い出しました。

 

『そこから自販機見えたよね。

今も見える?』

 

私の部屋から数十メートル離れた先に、

自販機があります。

 

何を言っているのだろうと眺めて、

手から携帯が滑り落ちました。

 

彼女が鬼の形相で涙を流しながら

笑っていました。

 

付き合っていた五年の歳月の中でも、

一度も見た事がない顔です。

 

いや、

 

一度でも見たら即座に別れを

決めていたと思えるような、

 

恐ろしい顔でした。

 

その夜は恐怖で一睡も

出来ませんでした。

 

朝日が部屋に差し込むのを感じて、

救われたような気持ちになりました。

 

清々しい空気と明るい日差しが

そう思わせるのでしょう。

 

薄くカーテンを開けて自販機を見ると、

もう彼女はいませんでした。

 

ほっとして、

勢いよくカーテンを開けました。

 

窓の真向かい、

 

細い路地の電柱にもたれるようにして、

彼女は座り込んで窓を見上げていました。

 

私を見つめて微笑みます。

 

お・は・よ・う

と、口が動くのが見えました。

 

開けた時と同じ勢いで、

カーテンを閉めました。

 

面倒な事になった。

 

溜息をつかずにはいられません。

 

気付かれないように外を見ると、

 

彼女は座り込んだまま、

こちらを見上げていました。

 

うちには一週間ほどの、

食料の貯えがあります。

 

彼女だって飲まず食わずで、

 

トイレにも行かずにいる訳には

いかないでしょう。

 

隙をみて部屋を出て、

しばらく友達の家をまわる計画を立てると、

 

荷物をまとめました。

 

しかし、

彼女は動きません。

 

もしかしたらちょうど私が覗いていない時に

用を済ませているのかも知れませんが、

 

見ている間はずっとそこに居ました。

 

そして四日目の夜、

彼女の姿がありませんでした。

 

(続く)別れた女からの連絡 2/2

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