人形を供養する神社で見てしまったもの 2/3
「すいません。
今から何かあるんですか?」
「人型焼きだよ」
おじいさんは気さくに答えてくれた。
「今から人形を焼いて供養するのさ」
「人型焼き・・・ですか」
予想はしていたが、
当たりだ。
今日来て正解だった。
面白いモノが見れそうだ。
それにしても、
何でこんな時期に?
俺はてっきり、
こういうのは年末とかの締めに
やるものだと思っていた。
だが今日は、
特に特別な日でも無い。
「いつも見に来るんですか?」
おじいさんに尋ねた。
「いつも人型焼きがあるわけじゃ
ないからねぇ。
いつもはこんな時期にはしないし、
こんなに大きな人形を焼くのも初めてだ」
少し間を置いて、
おじいさんが答えた。
「今日は特別なんだ」
もう一歩踏み込んでみる。
「『特別』って何かあったんですか?」
俺の問いかけに、
少しだが初めて表情が曇った。
地雷を踏んだか・・・と思ったが、
じいさんは暫く考えた後に口を開いた。
「信じられん話かも知れんが・・」
そういう話なら大歓迎である。
「実はな、
あの人形は元々本殿の脇にある倉庫に、
厳重に保管されとったものだ。
だがしかし、今日の早朝、
三日振りに神主が倉庫の点検をした時、
あの人形が消えとった。
神主と神社の者が総出で探し、
日が明るくなった時にやっと見つかった。
どこにあったと思う?」
何なんだ?
勿体ぶらないで欲しいな。
・・・と思いながらも、
乗ってやった。
「どこにあったんですか?」
「明るくなるまで、
だ~れも気付かんかった。
それもそのはず、
人形は誰が乗せたか、
本殿の屋根の上に置かれていた。
これには神社の者も心底驚いた。
なにせ人形はマネキンだ。
成人男性くらいはあるマネキンを、
高い本殿の上に持って行くのは容易ではない。
それに、
悪戯にしては手が込んでるし、
あんなとこにやる理由がわからん。
ともかく、
考えててもラチが明かんので、
マネキンを下ろす事にした。
だがハシゴを登って下ろす最中に、
マネキンを抱えた男が足を滑らせ、
マネキンと一緒に落下した。
男は足を折ったらしく、
すぐに病院に運ばれていった。
男はしきりに、
『人形が噛んだ』
『人形に噛まれた』
と訴えておった。
これはいかんと、
神主が慌てて型焼きの準備をし、
今に至る訳だ」
「随分と詳しいんですね」
にわかには信じられない話だったし、
完全に疑っている訳ではないが、
ちょっと意地悪してみた。
「毎朝ここを散歩していてね。
マネキンを下ろすところから、
ずっと見ていた」
なるほど。
おじいさんの話を聞いているうちに
準備は着々と進み、
さぁ火を点けようかといった感じだった。
神主さんが突然、掛け声を上げた。
それに続いて袴姿の男達も一斉に
呪文の様なものを唱えながら火を持ち、
箱を囲んだ。
よく見ると箱は、
針金の様なものでグルグルと巻かれていた。
一人目の袴男が、
箱の四隅の木組みに火を灯した。
チリチリと煙を上げ、
やがてゴウゴウと燃え出した。
それに続いて二人目、三人目と、
箱を除く全ての木組みに火が灯り、
激しい火柱をつくった。
50~60メートルだろうか。
結構離れているこちらにまで、
熱気が伝わる様だった。
最後は、
神主さんが真ん中の木組みに
松明を投げる様な感じで、
火を点けた。
四本の木組みの中には
木の葉が入れてあり、
白い煙を上げていたのだが、
真ん中の箱の辺りからは、
黒い煙がモクモクと沸き上がっていた。
「うっ・・・!!」
俺は思わず鼻を摘んだ。
いつの間にか、
今まで嗅いだ事もない獣の様な異臭が
辺りに立ち込めていた。
神主達の声が一層大きくなった気がした、
・・・次の瞬間!
『ぎょぇぇぇぇー!!』
『ぎゃあぁぁぁぁー!』
『@〇※▽@◆・・・』
声にならない叫び声と言うか、
今まで聞いた事もない悲鳴が、
広場の静寂を引き裂いた。
と同時に、
箱がガタガタと激しく揺れ出した。
情けない話だが、
正直俺は腰を抜かしそうだった。
走って逃げようかとも思ったが、
足が動かない。
完全に竦んでしまった様だった。
箱はバンバンと内側から叩かれて、
炎に包まれている。
ひょっとして人殺しなんじゃ・・・
とも思った。
凄惨な光景だった。
火はゴウゴウと燃え、
箱はガタガタと揺れ、
神主達は声を上げ、
悲鳴はやがて言葉に変わっていた。