人形を供養する神社で見てしまったもの 3/3

人形寺

 

「出せー!ここから出せー!

返せー返せー!」

 

しゃべっている・・・

まさか人間・・・

 

いや、そんなはずは無い。

 

第一、あの状況下で人間が

しゃべれるのか?

 

最初は『返せ』だと思っていたが、

後から違うと気付いた。

 

「かえせーかえせー!

俺を妻と子供の所に帰せー!!」

 

箱は依然ガタガタ揺れ、

バンバン叩かれている。

 

「お前は○○(男の名前)では無い!」

 

神主が突然怒鳴った。

 

「お前は人形だ!人形なんだ!

あるべき姿に戻れ!!」

 

そう言うと、

またも神主は呪文を唱え始めた。

 

「違うー!俺は○○だー!!

帰せー!!」

 

箱は一層揺れ、

端の蓋が焼け落ち・・・

 

というより弾け飛んだ。

 

そこから焼けただれた手が生えて、

激しく暴れていた。

 

すると、突然火が弱まり、

 

消えてしまうのでは?

と思うくらいに頼りなくなった。

 

神主は、

 

振り向くと置いてあった

桶を持って来た。

 

桶の中には水の様なものが

入っていたが、

 

すぐに酒だと思った。

 

と言うのも、

 

獣の臭いに混ざって、

さっきから酒の臭いが漂っていたのだ。

 

神主は酒を杓で掬うと、

箱に掛け始めた。

 

おいおい・・・

 

いくらアルコールだと言っても、

どう見たって日本酒だぞ。

 

気化しにくく、

 

発火性も低い日本酒を掛けても

止めを刺すだけだ・・・

 

と思ったが、

予想に反して火は驚くほどに燃え上がった。

 

『ぎゃぁぁぁぁー!

いぎぃぃぃぃぃー!

 

おのれええぇぇー!

妻と子供に会わせろー!

 

帰せー!俺を帰せー!!』

 

「お前は○○ではない!人形だ!

お前はお前に帰るんだ!!」

 

そう言うと神主は懐から手鏡を取り出し、

箱に投げ入れた。

 

そして、

 

周りの木組みを袴姿の男達が

中心に向かって倒し始めた。

 

最後に神主は桶を担ぐと、

残りの酒を全部ぶっ掛けた。

 

炎はこれまでより猛々しく燃え上がり、

巨大な火柱となった。

 

『ぎょぇぇぇぇー!!!!』

 

それが最期だった。

 

それからは叫び声がする事も、

箱が揺れる事もなかった。

 

気付けば俺は汗だくになっていた。

 

神主達は火がくすぶるまで、

呪文を唱えていた。

 

目の前で起こった出来事を、

否定したい自分がいた。

 

俺は確実に、

昨日までの俺とは違うだろう。

 

日常を一歩踏み外した・・・

 

ただそれだけなのに、

見える世界は色を変えていた。

 

その後、

神主が俺に歩み寄って来た。

 

俺は変に身構える事もなく、

神主の話を聞いた。

 

「一応、祓ってあげるから

付いて来なさい」

 

俺は神主を追って本殿に入った。

 

じいさんは神主と先を歩きながら、

何やら喋っていた。

 

どうやら顔馴染みの様だ。

 

本殿で二人は簡単な御祓いを受けた。

 

その後、茫然自失と言うか、

府抜けた感じだった俺に、

 

神主さんが詳しい事情を話してくれたから、

少しスッキリした気がした。

 

※茫然自失(ぼうぜんじしつ)

あっけにとられて、我を忘れてしまうさま。

 

「あの人形はね・・・長い間、

人として暮らしてきたんだよ。

 

あのマネキンを連れて来た

お婆さんが言うには、

 

自分の娘が大事にしていたそうだ。

 

娘と孫は事故に遭って死んでしまったけれど、

あのマネキンだけは無傷だった。

 

お婆さんは遺品だけど気味が悪くて、

仕方なくここに持って来たんだよ。

 

事故に遭った時も車に乗せていたくらいだから、

きっと相当大事にされていたんだろう。

 

余りに感情移入すると、

 

次第に人間は人形が生きていると

勘違いしてくるものなんだ」

 

そして、

 

この後に神主さんが言った言葉が、

今でも頭から離れない。

 

「人形も同じだ。

 

余りに大事にしすぎると、

自分が人間だと勘違いしてしまうんだよ。

 

何故なら、

彼等も生きているのだから」

 

(終)

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