バックパッカーで遭遇した恐怖体験

バックパッカー

 

※バックパッカー

低予算で国外を個人旅行する旅行者のことを指して使われてきた言葉である。バックパック(リュックサック)を背負って移動する者が多いことから、この名がある。

 

まだ20代だった頃、

 

バイクでの宿無しの旅に

どっぷりとハマっていた。

 

大学の長期休暇のたびに、

 

国内の色んな所で野宿したり、

優しい人の家に泊まったりして、

 

楽しい旅をしていた。

 

そういった旅をしていると、

 

知らない人に泊めてもらう事に

すごく鈍感になって、

 

壁のある所で寝られりゃどこでもいいや、

くらいにしか思わなくなってしまう。

 

(たぶん同じ事をしていた人なら

共感してくれるはず)

 

そんな旅の途中、

 

とある超田舎で野猿が出るため

野宿も出来ない所に辿り着いてしまい、

 

どうしようかな・・・と思っているところに、

 

優しそうなお爺さんが乗った車が

急停止して、開口一番、

 

「ウチ、泊まれよ!」

 

と言ってきた。

 

今、思えば、

 

「いきなり『泊まれ』なんて言う人、

初めて見たな・・・」

 

と、ちょっと疑っていた。

 

完全に安心しきって、

 

お言葉に甘えて泊まりに行ったら、

予想通りのボロ屋。

 

でも、部屋に入ってすぐ、

もの凄い大雨になったので、

 

ツイていたなあと話しながら、

地酒や山の幸をご馳走になり、

 

風呂もいただいた。

 

風呂から出ると、

雨脚も強まっていて、

 

「このまま2~3日泊まらせてもらうかな」

 

と呑気な事を考えていたら、

俺の服が無い事に気づいた。

 

爺さんに聞くと、

 

「汚れていたから洗濯してやった。

乾くまで俺の服を着ていろ」

 

と言われた。

 

その服は浴衣みたいな服で、

外に出られるようなものではなかった。

 

さすがにその勝手な行いには

かなり腹が立って、

 

「どこに俺の服を置いてんだよ!

 

大雨の日に洗濯したら

出られねえじゃねえか!」

 

と激怒して、

 

爺さんと揉み合いになりながら

家中の部屋を探し回った。

 

部屋は居間を挟んで三つ。

 

どこにも俺の服は無かった。

 

それでも探し回りながら、

 

「風呂に入ってる途中に物を盗るのは、

完全に物盗りだ!

 

絶対警察に突き出してやる!」

 

と思っていた。

 

その矢先である。

 

便所のドアを開けると、

便所が変わった造りだった。

 

ドアを開けると便器があって、

その向こうもドアなのだ。

 

つまり、

手前と奥の両側にドアがある。

 

どう考えてもおかしい。

 

この先に部屋がある!

と思ってドアを開けようとしたら、

 

爺さんがもの凄い形相で

後ろから組み付いてきて、

 

老人とは思えない力で

便器に何度も頭を叩き付けられた。

 

俺は、物盗りへの怒りより、

命の危険を感じて、

 

全力で爺さんの顔面を殴った。

 

殺してもいいとさえ思った。

 

爺さんは鼻の骨が折れたらしく、

 

すごい鼻血を出しながら、

やっと俺は解放された。

 

でも、服や荷物が無い事には、

外に出られない。

 

そのドアを開けると、

中は異常な光景だった。

 

8畳くらいの和室の真ん中には

分娩台のようなベッドが置かれ、

 

畳の上には無数のバイブ。

 

ヤットコみたいな工具もあった。

 

さらに部屋の隅には、

 

黒ずんだ染みのついたガーゼが

詰め込まれている段ボール箱。

 

それと、凄まじい異臭。

 

俺の服はその部屋に、

丁寧に畳まれて置かれていた。

 

なるべく周りを見ないように

震える手で服だけを取り、

 

着替え終わると走って外へ出た。

 

爺さんはまだ便所で気絶していた。

 

死んでいるのか生きているのか、

別にどっちでもよかった。

 

玄関のドアを開けると、大雨。

 

構わず停めてあるバイクへ一直線に走ると、

なぜか雨が降っていない。

 

嫌な予感がしたが、

 

バイクに跨ったまま

そのボロ屋の屋根を見ると、

 

何本ものホースを束ねて持ち、

 

白いTシャツを肩まで捲くった

漁師風の浅黒い筋肉質の男が、

 

玄関に向かって水を噴射していた。

 

そいつはなんでもない目で、

俺を見ていた。

 

目が合ったのはどれくらいだったか

わからないけれど、

 

すぐにバイクでフルスロットル加速して、

逃げ出した。

 

それ以来、旅はやめた。

 

その土地には観光客も

ほとんどいないので宿も無く、

 

野猿などが出るため野宿も出来ない。

 

しかし地理的に、

 

パッカーなどがそこで一旦休まざるを

得ない事が多いらしく、

 

ハードなゲイの方々がそこで集団生活し、

パッカー達を慰み者にしているらしい、

 

という噂を後に聞いた。

 

でも、俺が見た光景は、

そんな生易しいものではなかった。

 

宿無しの貧乏旅行をしていた人なら

わかると思うけれど、

 

泊めてくれた優しい人がゲイで、

少しイタズラされた、なんてのは、

 

パッカー達の間では「よくある笑い話」

で片付けられてしまう事が多い。

 

少しくらいのイタズラなら、

問題にされない。

 

「泊めてもらって、

メシまで食わしてもらったんだから、

 

少しくらいサービスしても

バチはあたらない」

 

そういったパッカー達の心理を

ホモの方々が狙う様になる、

 

というのもわからなくもない。

 

でも風呂を覗くくらいなら、

 

隠し部屋や雨降らしの工作も、

わざわざ要らないと思う。

 

つまり、

直感的に『監禁』はあったと思うかな。

 

(終)

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