予定外の貸し別荘での宿泊にて 2/3
足音も声も聞こえるのだから、
泥棒や不審者の類なら逃げそうなものだが、
そいつは10mくらいまで近付いても、
微動だにしない。
なにか気持ち悪かったが、
メンバーでリーダー格の友達と俺は、
「おっさん、何してんだよ!」
と言いながら近付いていき、
男の目の前まで来たのだが、
それでも動く気配が無い。
埒が明かないので友達が、
「聞こえてないのかよ!!」
と、そいつの腕を引っ張った。
その瞬間、
俺と友達は「うわあ!」と大声をあげて、
後ろへ飛びのいた。
そいつの腕を友達が掴んで引っ張った時、
その腕の手首から10cmくらいの場所が、
まるでゴムのようにグニャッと、
関節ではないところから曲がったのだ。
何事かと他の友達が近付いて来たのだが、
その時になって男はこちらへ振り向いた。
見た目は普通なのだが、
目はどこを見ているのかよくわからず、
また焦点も定まっておらず、
口をだらんと開けて涎を垂らしていた。
その時になって気付いたのだが、
服装もかなりボロボロで、
どう見ても普通の人には見えない。
俺達が呆然と男を見ていると、
男は俺達がまるで見えていないかのように、
そのままフラフラと森の中へと
去って行ってしまった。
俺達はあまりの出来事に動揺し、
暫らくその場から動けなかった。
しかし、
そのままそこに居るわけにもいかず、
俺達はふと我に帰り、
大急ぎで別荘内に入って
ドアの鍵を閉めると、
全員で室内の全てのドアの鍵をチェックし、
それが終るとリビングに集まった。
「なんだよあれ・・・」
「幽霊か?」
「でも触れたぞ」
「あの腕の曲がり方ありえないだろ・・・」
などとパニックになって興奮気味に話していると、
今度は外から、
・・・ドン
・・・ドン
・・・ドン
と、微かに太鼓のような音が
聞こえてきた。
その音はゆっくりとだが
こちらへ近付いて来ているようで、
俺達は皆押し黙って聞き耳を立て、
音のする方に集中していた。
音が庭辺りにまで近付いた頃、
不安が最高潮に達した俺は
我慢出来なくなり、
リビングのカーテンを開けて外を見た。
すると・・・
暗がりでよく見えないが、
何か大きな球状のものが転がりながら、
こちらへ近付いてくるのが見えた。
太鼓のような音は
その球状の物体からしているらしく、
ドンと音がすると転がり、
またドンと音がすると止まる。
それを繰り返しながら、
大通りから別荘へ向かう道を、
ゆっくりとこちらへ向かって来ている。
大きさは5~6mくらいあったと思う。
他の友達も、
窓を見たまま動かない俺が
気になったらしく、
全員が窓の側へやってきて、
『それ』を見ていた。
暫らく皆黙ってその様子を見ていたのだが、
暗がりでよくわからないので正体がつかめず、
誰も一言も話さないまま、
ずっと『それ』を凝視していた。
すると、かなり近付いた頃、
『それ』は玄関近くまでやってきたため、
玄関に付いている防犯用のライトが点灯した。
その瞬間に俺は、
「なんだよあれ!
洒落になんねえよ!」
と慌ててカーテンを閉めた。
カーテンを閉める直前、
一瞬ライトに照らされた『それ』は
なんと表現したら良いのか・・・
『無数の人の塊・・・』
とでも言うような物体だった。
老若男女様々な人が、
さっきの男と同じように
口を開けて涎を垂らし、
どこも見ていないような
焦点の合っていない目の状態で、
関節などとは関係なく、
体と体が絡みつき、
何十人もの人が一つの『塊』となって
転がっていたのだった。
俺以外も全員その『人の塊』を見た為、
あまりの恐怖に何も言えず、
俺達はリビングの端の方で一塊になって
ガタガタと震えながら、
「どうなってんだよ・・・」
「なんだよこれ・・・」
などと不安を口にしていた。
暫らくすると太鼓のようなドンという音が
聞こえなくなった。
『それ』が居なくなったのかどうかが
わからない俺達は、
そのままリビングの端でじっとしていると、
今度は玄関の方から、
ドン!ドン!ドン!ドン!
ドン!ドン!ドン!ドン!
と、激しくドアを叩く音が聞こえてきた。
俺は恐怖と不安から、
パニック状態になって耳を塞ぎ、
他のやつも皆耳を塞ぎ、
必死で今の事態に耐えていた。
だが、暫らくすると、
今度は建物中のあちこちから、
ドン!ドン!ドン!ドン!
ドン!ドン!ドン!ドン!
と、窓と言わず壁と言わず、
あちこちを大勢の人が滅茶苦茶に
叩く音が聞こえてきた。
耐えられなくなった友達が、
「電話しよう。
管理事務所直通の電話があっただろ。
あれで助けを呼ぼう」
と言った。
俺達はハッとその事に気付き、
急いで玄関側にある電話に急いだ。