船乗りの網元に伝わっていた不思議な話 2/2

貨物船

 

去年の年末、

 

体調を崩したという母の見舞いを兼ねて、

俺は仕事帰りに実家に寄った。

 

思いのほか、

母は元気だった。

 

「鬼の霍乱だな」

 

※鬼の霍乱(おにのかくらん)

普段きわめて健康な人が珍しく病気になることのたとえ。

 

などと言って笑う俺に、

母が言った。

 

「最近ね、

毎晩のように靖が夢枕に立ってね・・・

 

いつも背中を向けていたんだけど、

 

一昨日、夢枕に立った時、

私の方を向いていたんだ」

 

「考えすぎだよ、母さん。

 

体調を崩して

気弱になっているだけだよ」

 

でもね、母さんね、

足を『くすぐられた』んだよ。

 

子供の頃に話した話、

覚えているでしょ?」

 

俺は迷信だよと言って、

取り合わなかった。

 

俺は遅くなったクリスマスプレゼントを

両親に渡し、

 

「大晦日と正月はカミさんと子供を

連れてまた帰って来るから」

 

と言って、

実家を後にした。

 

7日まで休みをもらっていた俺は、

 

実家で親父と酒を飲みながら

ゴロゴロと過ごしていた。

 

5日の夕方だった。

 

突然、

伯母から電話が掛かってきた。

 

カミさんが電話に出て、

母に取り次いだ。

 

どうやら叔父が見つかったらしい。

 

遺品から伯母に連絡が入ったようなのだが、

愛知県在住で姑の介護がある伯母は、

 

直ぐには千葉県の警察署まで

行く事は出来ない。

 

代わりに確認に行って欲しい、

と言う事だった。

 

警察署の担当者に電話を入れ、

 

翌日、

俺は両親を乗せて車を走らせた。

 

遺体は、どうやら叔父さんに

間違いないようだった。

 

遺品は、ごく僅かだった。

 

数百円しか入っていない財布と、

遺書の書かれた文庫本。

 

駅前などでよく配られている

ポケットティッシュと、

 

それらが収められた

セカンドバッグくらいだった。

 

火葬と埋葬には、

色々と煩雑な手続きがあるようだ。

 

※煩雑(はんざつ)

こみいっていてわずらわしいこと。

 

やがて、

田舎から伯父たちが上京してきた。

 

叔父の遺骨は母の実家の

菩提寺の納骨堂に納められるらしい。

 

年明けからの忙しさもあって、

殆ど面識もなかった叔父の死に、

 

冷たいようだが

俺に特別な感慨はなかった。

 

ただ、文庫本の余白に、

 

ボールペンで書き殴られた

叔父の遺書の日付は、

 

叔父が母に顔を向けて夢枕に立ち、

母が足を「くすぐられた」と言った、

 

あの日の日付だった。

 

叔父は母に別れを告げに来たのだろうか?

 

霊魂や死後の世界が本当にあるのか、

俺には分からない。

 

ただ、自ら命を絶った叔父の死が、

どのような理由があったかは分からないが、

 

生前に兄姉親族を頼る事も出来なかった

彼の孤独な境遇が悲しい。

 

(終)

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