深夜、ガタガタと物音がする玄関から
前に住んでいたアパートでの出来事で、
2年前に体験した本当の話です。
その日はバイトで疲れて熟睡していた。
『ガタガタッ』
そんな異様な音で目を覚ましたのは、
午前3時半を少し過ぎた頃だった。
「新聞には早すぎるな・・・」
そう思ったが、
眠かったので無視してそのまま寝ようとするも、
いつまで経ってもその音は鳴り止まない。
不審に思った俺は、
上半身を起こして玄関の方を見た。
2週間後に引っ越すことになる・・・
まだ夜も明け始めていなかったので、
部屋の中は真っ暗だった。
まだ暗闇に慣れない目を細めながら
玄関の方をじっと見ると、
郵便受けの辺りで何かが動いている。
背筋が寒くなるのを感じながら、
俺は意を決してベッドから起き上がり、
まだ『ガタガタッ』と音を立てている
玄関の方へと近付いた。
玄関でその光景を見た俺は、
思わず言葉を失った。
郵便受けからドアノブに青白い手が伸びていて、
それがドアノブを執拗に上下させていたのだ。
俺は絶句して立ち竦(すく)んでいると、
その青白い手はグニャ~っと
有り得ない方向に曲がり始めた。
ドアノブの上にある鍵まで伸びてきた手は、
その鍵を開けようと手首をグルグルさせ始めた。
途端に怖くなった俺は、
立てかけてあったビニール傘の先で
その手を思いっきり何度も突き刺した。
リアルな肉の感触が傘から伝わってくる。
それでも思いっきり傘を突き刺していると、
その手はフッと引っ込んで静かになった。
玄関の外には人の気配は無く、
覗き穴を見ても人らしき影は無い。
「うわ!出たかも!!」
そう思いながら、
その日は布団を被って震えながら眠りについた。
夕方頃に目を覚まし、
バイトへ行くため恐る恐る玄関に近付くと、
“無数に小さな丸い跡”が付いていた。
それは昨日、
俺が何度も青白い手に突き刺したはずの
傘の先の跡だった。
俺は確かに手だけに刺していたはずだった。
一度も金属音などはしなかったし、
そんな感触も無かった。
だが、
おかしなことはそれだけではなかった。
外にはクッキリと、
玄関の方を向いて立っていたであろう
“足跡”が付いていた。
それも泥まみれの・・・
その日も前の日も雨なんか降っていなかったし、
階段には足跡どころか泥さえも付いていなかった。
その出来事から2週間が経った頃、
俺は今のアパートに引っ越した。
今でもあの日のことを夢に見て、
跳ね起きることがある。
あれは幽霊だったのだろうか?
それともストーカーの類か?
当時は本当に洒落にならないほど怖かった。
(終)