故郷から遠ざけられていた理由 1/2
つい先日、私は20歳の誕生日を迎えた。
故郷から程遠い大学に入った為、今は一人暮らしをしている。
友達と騒ぎ倒し、飲み倒し、気付けば爆睡していた。
その着信に気付いて目覚めると、窓から夕陽が差し込んでいた。
携帯電話の着信画面を見ると母からである。
珍しいな・・・と思いながら、その電話に出た。
母からの急な用件とは
私「はい・・・もしもし・・・・・」
母「誕生日おめでとう。その声は寝てたな。まあ誕生日やしね。ということはメールも見てないやろ?」
私「メール? ごめん、見とらんわ。なんて?」
母「次の土曜日に必ず帰省して欲しいんよ。バイトがあっても休んで。交通費も出すし、とにかく重要な話がある。直接話さないと」
私「なにそれ、気持ち悪い・・・。分かった。土曜日・・・って明後日やん(笑)」
母「うん。とにかく絶対に帰って来てね」
そして電話は切れた。
薄気味悪いと思ったが、明後日になれば分かること。
母からのメールを確認すると先程の電話と内容は同じで、『とにかく帰省しろ』とのことだった。
そして土曜日、私は実家の前に立っていた。
古い木造の母屋。
小さい頃は怖くて近寄れなかった蔵。
手入れされた庭。
そして、その庭の奥にある祠(ほこら)。
なにもかも懐かしく、そして久し振りだった。
何度か帰省しようとは思ったが、両親の都合が悪くて帰れなかった。
そんなことを考えながら、ボーっと家を見上げていると、窓からひょっこりと顔を出している小さな妹がいた。
妹「ねえちゃんおかえり! 待ってたんよ!!」
ウサギ似の私とは違い、鼻筋の通った地黒のオリエンタルビューティーな妹。
※オリエンタルビューティー
アジア系の美人。
そんな妹は小さい頃から身体が弱く、様々な手術を乗り越えてきたが、つい2年前に脳梗塞を発症した。
後遺症は幸いなことに残らず、それを最後に健康な様だ。
昔から私に懐いてくれている可愛い妹。
この2年間、ろくに電話もしていないことに気付く。
妹の声が聞こえたのだろうか、玄関が開いて母が顔を出した。
母「おかえり。元気そうやね。はよ入りまい」
そう促(うなが)され、久し振りの我が家に入る。
居間に荷物を置き、スウェットに着替えて一息ついていると、奥の座敷から父の声がした。
父「○○(私)、こちらに来なさい」
昔から厳格で寡黙だが、優しい父。
※寡黙(かもく)
口数が少ないこと。
妹と弟(部活で不在)には甘いが、私には凄く厳しかった。
長女だからと自らを納得させていたが、なんとなく父に対してコンプレックスを抱いていた。
襖(ふすま)を開くと、土気色の顔をした両親が並んで正座していて、その前に座布団が敷いてあった。
座るように言われ、私は恐る恐るその座布団に座った。
少しの沈黙の後、父が口を開いた。
父「○○、おかえり。元気そうでなによりや。いきなり呼んで済まなんだ。とにかく話がある。分かってくれ」
私「いいよ。話ってなに? それががいに気になって寝れなんだ」
※がいに
主に愛媛県の方言で、「非常に」や「大そう」という意味。
父「ん・・・そやな。お前もこのあいだ20歳になって成人したしな。話さなね。お前、覚えとるか?ユミ(妹・仮名)が脳梗塞になった時、お前になんかあったやろ?」
私「え?なんも無かったけど・・・。強いて言うなら、第一志望やった大学が奇跡で推薦が決まったことかな?」
父「ん・・・。せやな。じゃあ、ユミが耳の手術をした時は? あん時お前は高2じゃ」
私「高2といったらインターハイが決まった。・・・いや、秋やから国体やわ」
父「じゃあ、ユミが幼稚園の頃に事故に遭って手術したやろ。その時は?」
私「なに言いよるんや。話と何が関係あるんや。ユミの不幸が私となんの関係が・・・」
父「あるんや! 答え!!」
私「・・・覚えとらんわ。あん時、私は小学4年生やったやろ」
父「お前はあん時、読書感想文で全国大会に行ったんや」
私「・・・・・・」
父「気付いたか?そうや、お前の幸せはユミの不幸と比例しとる」
私「そんなん偶然やろ」
母「違うんよ。このノート見て」
古い汚れたノート。
薄っすら黄ばんでいる。
それを開くと、びっしりと小さい字で私の名前と妹の名前が書いてあった。
▲月△日◎◎曜日
【○○が習字コンクールで金賞】
【ユミが頭を怪我。5針縫合】
▲月△日◎◎曜日
・・・・・・
・・・・・・
正直、薄気味が悪かった。
そのノートを見ると、確かに父の言うことは納得出来る。
それに、私が良いことがあり喜んでいると妹の身に何かあり、『良いことがあれば悪いことが起こる』という方式を自分の中で作っていたことも思い出した。
父「お前はな、”いみご”なんや」
私「・・・いみごって、忌むに子でいいんかな?」
父「そうや」
私「・・・・・・」
その時はまだ意味は分からなかったけれど、とにかく“良くない意味”というのは理解出来たし、未知の恐怖で涙が出てきた。
父「ほんま、ごめんな。悪いと思ってるけど我慢して聞いてくれ。・・・大丈夫か?すまんな」
私「・・・大丈夫。続けて」