故郷から遠ざけられていた理由 2/2
父「この部落には池があるやろ。あれは昔はうちの祖先の池でな。今では維持とか無理やし県に寄贈したが。そこに石碑があるんや。その石碑ってのが『人柱』への感謝の石碑や」
父「あの池はなんか知らんけど、週に一人は男が足を掴まれたとかゆうて溺れてな。近所の神主さんに来てもらって見てもらうと『物の怪(もののけ)』が棲んでたんや。女のな」
父「その物の怪というのが、当時のうちの祖先の当主の妾(めかけ)やった女と子供の成れの果てや。当主に捨てられ身ごもった子供と怨みを抱きながら池に身を投げた。そんでそいつが悪さしよると」
※妾(めかけ)
正妻でない妻。
父「その物の怪は溺死した男達の怨みを糧にデカクなり、はよ鎮めな恐ろしいことになると言ったらしい」
父「そんで、その鎮める手段は『当主を人柱にする』ということやった。しかし、その当主は大した臆病者で、自分の名前を書いた人形を放り込んで人柱としたんや。石碑まで建ててな」
父「そして2か月ほどして当主の孫が生まれた。可愛い色白の女の子で、初めの忌み子や」
私「色白・・・」
私は地黒な両親から生まれたとは信じられないほど、色が抜けるほど白い。
その『色白』と、あえて言った父の思惑が手に取るように分かった。
父「そうや。その子が生まれてから村は壊滅状態になり、祖先の家族は謎の疫病にかかり死んでった」
父「これはアカン!と、もう一度神主を呼び、見てもろたらしい」
父「したら、神主は激怒した後こう言った。『なんてことしたんや!忌み子により末代まで祟られる』・・・とな」
父「忌み子は何代かに一度生まれる。特徴は『色白』、『女の子』、『泣きぼくろ』があるらしい。生まれる日は必ず雨で、身内に多大なる健康的被害を与える。・・・と書物にあった」
ふいに私の左目の下にあるホクロがうずく。
父「妾の子が女の子でな。泣きぼくろがあったらしい。神主はすぐに当主を殺し、池に沈めることを勧めた」
父「もちろんみんな追い詰められていたし、これに従った。そして妾とその子を祀った小さな祠を建てた」
私「それって・・・」
父「そうや。裏のな」
父「そうしてなんとか被害は収まった。しかし、忌み子はずっと生まれ続けてきたんや」
父「昔のように大勢の人間に被害を与えることはないが、その忌み子が嬉しいと感じた時、同性の姉妹が対になるように怪我するようになった」
父「それがお前と妹のユミや」
妹への罪悪感。
なんで今更こんなことを言うのか。
頭が痛い・・・。
父いわく、忌み『子』という言葉通り、20歳になれば忌み子ではなくなるという。
しかし、妹には念の為に近付かないで欲しいこと。
他にも、私が帰省しようとした時に『都合が悪い』と言ったのも、実は『妹の為』だったこと。
実際に私が一人暮らしをしてからは、妹が怪我や病気ひとつしないこと。
小さい頃に何度も私を殺してしまいそうになったが思い留まったこと。
そう矢継ぎ早に言われ、「もう実家には帰らないで欲しい」と両親に泣かれた。
泣きたいのはこっちだよ・・・。
頭の中は混乱していますが、これらは本当のことです。
私自身、まだ信じていませんが・・・。
父から告げられたその日、逃げるように故郷から去りました。
父が厳しかったことも、母がよそよそしかったことも、今となっては納得出来ますが、まだ信じられません。
それも当然です。
家族を失いましたから・・・。
可愛い妹にはもう二度と会えません。
あなたの兄弟姉妹は大丈夫ですか?
あの日から、私の左目の下にある泣きぼくろがうずきます。
(終)
身籠ってたのに、何で泣きぼくろがわかるん?
身ごもっていた妾(めかけ)は「物の怪」であり、泣きぼくろがあるのは「忌み子」。別人です。つまり、妾の怨みによって稀に忌み子(色白・女・泣きぼくろ)が生まれる。この話の語り手は、その当事者となってしまった・・・という話だと思います。
もしかすると、妾の女性は色白で「泣きぼくろがあった」のかも知れません。