後ろの荷台に髪の長い女が
兄から聞いた高校時代の話です。
友人のKさんはその日、同じ部活の後輩と一緒に帰っていました。
時刻は夜の10時前。
田舎なので近くに家は無く、外灯の明かりしかない海岸線を、後輩の自転車の荷台を原付に乗るKさんが後ろから足で押す形で長い坂を登っていました。
“ソレ”に気付いたのは、バイクの後ろに重みを感じ、まるで誰かを乗せているような錯覚を感じたからです。
実は・・・
ミラーを覗くと、バイクの荷台に”髪の長い女”が俯いて座っていました。
洋服は所々に血が滲(にじ)んでおり、髪は乱れていたそうです。
女が今にも顔を上げそうな気がしたので、Kさんは慌ててミラーから視線を外しました。
「自分が女に気付いていることを悟られてはいけない!目を合せちゃいけない!」と思い、前だけを見て運転をしていました。
しかし、後ろから女がジッとこちらを見ているのが分かります。
しばらくはそのままミラーを絶対に見ないよう気を付けて走っていました。
ふと荷台から重みをが消え失せたので、Kさんは恐る恐るミラーを確認しました。
すると後ろの女は居なくなっており、一気に緊張が解けたKさんは、後輩に声をかけようと前を見た瞬間、凍りつきました。
後輩の自転車の荷台に、女が前を向いて座っていたのです。
後輩とは女が現れてから会話しておらず、何も気付いていない後輩を怖がらせてはいけないと思い、Kさんは女の存在を黙っていました。
そして、後輩の自転車を押している足を女からなるべく遠ざけ、前を見ないように走り続けました。
途中、女が振り返り、自分をジッと見ているのは分かりましたが、決して女を視界に入れませんでした。
女は坂を登り切ったところで消えたそうです。
そのまま無言で後輩を送り届け、その日は終わりました。
後日談
次の日、Kさんは昨日のことを全て後輩に打ち明けました。
怖がるかと思えば後輩は納得したように頷くと、「実は・・・」と語り始めたそうです。
実は、後輩も女の存在に気付いていたそうです。
途中、急に黙った先輩を不思議に思い振り返ると、先輩の後ろに髪の長い女が座っており、慌てて前を向きました。
しかし、気になったので何度か後ろを振り返っていると、先輩の後ろに座っていたはずの女が先輩の顔に付きそうな近さで凄い形相をして見ていました。
怖くなって、それ以降は後ろを振り返らず前だけを向いて走っていると、急に荷台が重くなり、微かに血の臭いがしたのであの女が来たのは分かったそうです。
しかし、女は後ろでブツブツと何か言っているようでしたが聞き取れず、しばらくすると重みが消えたそうです。
Kさんは後輩の話を聞き、女が自分に執着している気がして怖かったそうですが、何の心当たりもなく、以来ひとりでは帰らないよう気を付けていました。
その海岸線では何年か前に女性の身元不明の遺体が上がっており、この話を聞いて、彼女がまだ彷徨っているのかなと悲しくなりました。
(終)