わたしたち友達だよね?
これは、私の妹が体験した話です。
私と妹は4つ年が離れています。
私が小学5年生の時、妹は小学1年生でした。
小学校に入学当初の妹は、うまく友達が作れず寂しそうでした。
学校に行きたくないという妹を私は心配していたのですが、何週間か経った頃、やっと妹に友達が出来ました。
同じクラスの裕美ちゃん(仮名)です。
裕美ちゃんは不思議な子でした。
私たち友達だよね?これから毎日おいで
目の前にいてもその存在に気付かないような、とても静かな子でした。
その顔はいつも無表情で、何を考えているのか分からない暗い印象の、例えるならまるで人形のような子でした。
裕美ちゃんは何度も我が家へ遊びに来ました。
しかし、私は裕美ちゃんが喋っているのを見たことがありませんでした。
妹と遊んでいる間もずっと黙ったままで、ただ妹の話を聞いているだけです。
私は裕美ちゃんを最初のうちは大人しい子なのだと思っていたのですが、次第に薄気味悪くなってきました。
というのも、裕美ちゃんが妹を見るその目はどこか怪しく、とても友達に向ける目ではなかったのです。
正直、妹が裕美ちゃんと仲良くするのはやめたらいいのに・・・と思っていました。
何ヶ月か経ち、妹は裕美ちゃん以外に友達が出来ました。
自然と妹は裕美ちゃんと一緒にいる時間が減っていき、妹以外に友達のいなかった裕美ちゃんはクラスで孤立していったそうです。
そんな時に事件は起きました。
妹のクラスでは、亀を飼育していました。
その亀がある日いなくなったのです。
ある生徒が裕美ちゃんが持って帰るのを見たと言いましたが、裕美ちゃんは何も言わず、ただ黙っていたそうです。
これを境に裕美ちゃんは「亀泥棒」と言われ、クラスで仲間外れにされるようになりました。
当の裕美ちゃんは気にした様子もなく妹に近寄るので、妹は次第に裕美ちゃんを鬱陶しいと思うようになり、露骨に避けるようになりました。
そんな妹を、裕美ちゃんは突然自宅に誘いました。
しつこく誘う裕美ちゃんに根負けし、妹は仕方なく裕美ちゃんの家に行ったそうです。
裕美ちゃんの家は団地でした。
とても古く、中は汚れ放題でゴミが散乱していたそうです。
そして、物凄い悪臭がこもっていたそうです。
悪臭の原因を知った時、妹は驚きました。
裕美ちゃんは当たり前のように畳の上で尿を足したのです。
呆然とする妹に、「私たち友達だよね?これから毎日おいで」と、裕美ちゃんは言ったそうです。
妹は、「嫌だ!もう友達じゃない!」と断り、家から飛び出しました。
翌日学校へ行くと、机の上に甲羅を割られて潰れた亀が置いてあったそうです。
裕美ちゃんだと直感した妹は、裕美ちゃんを怖がるようになりました。
妹いわく、裕美ちゃんはその日から人が変わったように喋るようになったと言います。
その内容が酷いのです。
「○○ちゃん(妹)のお母さんは男の人とエッチしてお金を貰っている。あたしは見た」
「○○ちゃんのお父さんは昔に人を殺しておうちに埋めた」
「○○ちゃんもエッチしてお金を貰うようになる」
そんなことを繰り返し言うのです。
妹は次第に学校を休むようになりました。
事態を知った親が学校に苦情を入れると、裕美ちゃんの家庭で驚く事が明らかになりました。
なんと、裕美ちゃんは一人で住んでいたというのです。
両親は行方不明ということでした。
結果、裕美ちゃんは転校しました。
施設に入ったのか親戚に引き取られたのかは分かりません。
妹は再び学校に通い出しました。
問題は解決したと思われました。
ただ、疑問が残るのです・・・。
果たして小学1年生が一人で生活できるものなのか?
あの大人しい裕美ちゃんが、どこで「エッチ」という言葉を知ったのか?
意味は分かっていたのか?
なにしろ小学1年生です。
妹も意味が分かっていませんでした。
そして、私が本当にゾッとしたのは、後日に妹が言ったこの言葉です。
「裕美ちゃんのお父さん居たよ」
妹は確かに、裕美ちゃんのお父さんを見たと言うのです。
全然裕美ちゃんと似ていなかったと。
ずっと薄笑いを浮かべていたそうです。
そのお父さんは、裕美ちゃんが畳の上でおしっこをするのを注意せずに、ただじっと見ていたそうです。
そして妹を見ると、裕美ちゃんに何かを耳打ちしたそうです。
そうして裕美ちゃんは言いました。
「わたしたち友達だよね?これから毎日おいで」
その男は何者だったのでしょうか?
妹の錯覚ではないとしたら・・・。
もしも妹が家から飛び出さなければ・・・。
私は今でも時折、裕美ちゃんの無表情な顔を思い出します。
(終)