それは「あやこさんの木」と呼ばれている 1/2
私が通っていた小学校には『あやこさんの木』というのがあった。
なんという種類かは分からないが、幹が太く立派な木だ。
なぜあやこさんの木というのかは分からない。
みんなそう呼んでいたが、由来は誰も知らない。
そんな名前の木だから、あやこさんの木には色々な怪談があった。
あやこさんの木の下にはあやこさんが埋められているとか、あやこさんが首吊りをしたとか、夜中にあやこさんが枝に座っていたとか・・・。
そのあやこさんの木が切られることになった。
切られたあやこさんの木の切り株に・・・
整地された校庭には不釣合いな木だし、100メートル走のスタート位置のすぐ後ろに立っていて、体育の時間や運動会の時はかなり邪魔になっていた。
あやこさんの木が切られる日は、危ないから休み時間に校庭で遊ぶのは禁止され、体育の授業も体育館で行われることになった。
授業中にチェンソーの音が聞こえ、そのチェンソーの音が木を切っている音に変わった瞬間、「ギャアアアアア!!」という凄まじい叫び声が聞こえた。
男なのか女なのかも分からないほど歪んだ声。
どこから聞こえているのかも分からない。
教室から聞こえてくるようにも思えるし、遠くから聞こえてくるようにも思える。
先生はすぐに授業を中断して廊下に出て、他の先生と話し合いを始めた。
その間もずっと叫び声は続いている。
数分が経って、校庭に避難することになった。
避難している最中も、叫び声は聞こえる。
叫び声は学校中に響いていて、やはりどこから聞こえているのか分からない。
校庭に避難してからも、校舎の中から叫び声が聞こえる。
しばらくしてあやこさんの木が切り倒されると、叫び声は止んだ。
その日は何も持たずにそのまま集団下校をすることに。
夜になって保護者説明会があり、次の日は休校ということになった。
保護者には、「誰かが放送室に侵入してイタズラをした」と説明したらしい。
翌日に友達と学校へ行ってみたが、校門は閉じられていて中に入れない。
道路から校庭が見えるのであやこさんの木を見てみると、大人が何人かいて、切り株になったあやこさんの木の周りを白い紐で囲っている。
どうやら御祓いをやっているような感じだ。
その日の夜、スイミングスクールの帰りに自転車で学校の前を通り、何気なく校庭のあやこさんの木を見ると、あやこさんの木の切り株に女の子が座っているのが見えた。
うちの小学校は一箇所だけ夜間照明があり、それがあやこさんの木のすぐそばにある。
だから、遠いが結構はっきりと見える。
間違いなく女の子が切り株の上で体育座りをしている。
夜の10時過ぎだ。
こんな時間に女の子があやこさんの木の切り株に座っている。
あやこさんだ。
間違いなくあやこさんだ。
恐怖もあったが、明日はこの話題で持ちきりになるだろうという嬉しさの方が強かった。
早く家に帰ろう、そう思い自転車をこぎ出すと、市内放送が流れた。
こんな時間に市内放送が流れるなんて滅多にない。
自転車を止めて聞いていると、どうやら小学生の女の子が行方不明になっているらしい。
小学生の女の子?
さっきの切り株に座っていた女の子が頭をよぎった。
あの子かな?
でもなんであんなところに座っているんだろう?
正直かなり怖かったが、女の子を見つければヒーローになれる。
その誘惑に勝てず、一人で校庭に忍び込むことにした。