4時44分に音楽室のピアノが勝手に鳴る
小学生の時の話。
その日、ユキエちゃんとミチヨちゃんと俺の3人は、放課後に展覧会の作品制作で学校に残っていた。
ミチヨちゃんは物静かで大人しく、また病弱でよく学校を休んでいた。
そのせいで展示物の制作が間に合わなかった為、班の中で最も制作が進んでいた俺とユキエちゃんが手伝うようにと残されていた。
適当なところで「そろそろ終わりにしようか」と後片付けをしながら、俺はユキエちゃんを怖がらせようと怖い話をした。
「4時44分に、音楽室のピアノが勝手に鳴るんだぜ?行ってみるか?」
ユキエちゃんはポッチャリしているが、運動神経が良くて男勝りだった。
それに俺は悪ガキでユキエちゃんは優等生だったので、何かにつけてたしなめるユキエちゃんに意地悪をしたかったのだ。
音楽室にいるはずの先生が・・・
「やめようよ。もう暗くなってきてるじゃん」
ミチヨちゃんは怖気づいているが、ユキエちゃんは呆れ顔で「バカじゃない?そんなのいるわけないじゃん。勝手に行けば?」と言い放つ。
あまり乗ってこないので「面白くねぇな」と片付けて図工室を出ると、3階からピアノの音が聞こえる。
俺はユキエちゃんの顔を見て「いま何時?」と聞くと、ユキエちゃんは顔を青くして「そんなわけないじゃん・・・誰かいるんだよ」と、かなりビビっている様子。
それを見た俺は、面白がって「行ってみようぜ!」と階段を上った。
「待ってよ!置いてかないでよ!」とユキエちゃんが走って付いて来る。
「ねえ、どこ行くの?待って~」とミチヨちゃんも付いて来た。
ピアノの音はきちんと曲を奏でていたので、きっと誰かいるんだろうなと音楽室の前に立ってユキエちゃんが来るのを待った。
「なんだ、先生がいるんじゃん」
音楽室の中には、女の高橋先生がピアノを弾いていた。
高橋先生は別の学年の担任だったのであまり知らない先生だったが、俺達に気がつくと「早く帰りなさい。さようなら!」と教室の中から言った。
「さようなら」
俺達は挨拶をして立ち去ろうとすると、ミチヨちゃんがようやく息を切らせて追い付いた。
「何なの?待ってよ、もう~」とミチヨちゃん。
「だから言ったじゃん!高橋先生だったよ、帰ろ!」とユキエちゃん。
俺は二人を置いて走って行く。
振り返ると、ユキエちゃんは追いかけて来ているが、ミチヨちゃんは音楽室を覗いていた。
「置いてくぞ!」
薄暗くなった人気のない校舎は不気味で、ユキエちゃんがビビればいいなと思ったが、最後尾のミチヨちゃんが可哀相になったので階段の手前で待つことに。
そして3人で2階へ下りて、教員室に図工室の鍵を返しに行く。
担任に鍵を渡してさようならと告げると、残っていた先生たち数人が「はい、さようなら」と返してくれた。
「あれっ?」
その時、ユキエちゃんが声をあげたので視線の先を見ると、高橋先生がいる。
音楽室にいるはずの高橋先生が・・・。
「高橋先生、音楽室にさっきいましたか?」
そう俺が聞くと、「うん?いや、行ってないよ。今は誰もいないね」と。
各教室の鍵を掛ける棚には音楽室の鍵がある。
ここに鍵があるということは、“音楽室には鍵が掛かっている”ということなのだ。
俺とユキエちゃんは顔を見合わせて、「高橋先生じゃなかったんじゃないの?」と言いながら学校を出た。
誰だったんだ?女の先生だったよ、と話していると、ミチヨちゃんが「何なの?音楽室に誰もいなかったじゃん。ピアノの音も聞こえなかったし」と。
ミチヨちゃんは冗談や嘘をつくような子ではない。
その表情と声のトーンに、俺とユキエちゃんはお互い顔を真っ青にした。
「俺、聞こえたし見た・・・」
「わ、わたしも・・・」
その場からしばらく動けずに、ガタガタと震えていた。
翌日、俺とユキエちゃんは熱を出して二人して学校を休んだが、それからは音楽室でおかしなことが起きることはなかった。
(終)