新しい家に住み始めて一年が経った頃

住宅

 

俺の親友の話をしたいと思う。

 

小4の頃に、その親友(以下、H)の親が二階建ての大きな家を建てた。

 

建設業を営むHの父親が建てた立派な外観のその家は、当時団地住まいだった俺にとっては羨ましかった。

 

だが、Hは「雰囲気が暗い」と言ってあまり嬉しそうではなかった。

 

確かにHが言うように、窓も大きく日の光がたくさん入りそうな家なのに、室内はどの部屋も暗く、湿っぽい感じがした。

 

Hの家族が住み始めて1年が経った頃、飼っているメスのシベリアンハスキーが子犬を9匹産んだ。

 

だがそのうちの5匹は死産で、母犬も産後の肥立ちが悪くすぐに死んでしまった。

 

この頃からH家の異変は始まったらしい。

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H家はバラバラになってしまう

H家は犬好きで、他にも柴犬とビーグルも飼っていたのだが、柴犬は何かに怯えているのか犬小屋から出ようとせず、室内犬のビーグルもある方向を睨み付けては吠えてばかりだった。

 

それからしばらくしてHの祖母(父親の母)が同居し始めた時から、Hの父母が不仲になり始めた。

 

Hの祖母は某宗教に入信しているらしく、毎日起床時と就寝前にお題目を唱えているそうで、気味が悪いから止めさせろと母親が言ってきたのが原因らしい。

 

俺も何回かこの家に泊まったことがあるのだが、確かにボソボソと聞こえてくるそれが気持ち悪かった。

 

Hとその弟二人は2階にそれぞれ自室を持っているのだが、三人とも「毎晩怖い夢を見る」と言っていた。

 

内容は皆同じで、『祖母が白装束を着て、暗い廊下で満面の笑みでよだれを垂らしながら踊り狂っている』というものらしい。

 

両親に訴えても取り合ってもらえず、そのまま自室で寝ていたらしいが、ある日の晩にHのすぐ下の弟の部屋から叫び声が聞こえてきたそうだ。

 

両親とHが駆けつけると、そこには夢の通りに白装束を着て踊り狂う祖母の姿があったらしい。

 

踊りながら糞尿を垂れ流し、父親の呼びかけにも応えずに踊り続ける祖母。

 

それは地獄のような光景だったそうだ。

 

Hの祖母はそのまま救急車で運ばれたそうだが、医師の診察では「異常なし」と言われたらしく、翌日には家に帰ってきた。

 

だが、明らかに目の焦点は合っておらず、家中や近所を白装束で徘徊する姿は幽霊のようだったとHは言っていた。

 

老人ホームに預ける話も出ていたらしいが、父親の反対もあり、そのまま住み続けていたようだ。

 

この頃、H自身もよく原因不明の怪我をしたり、すぐ下の弟も『幽霊屋敷に住んでいる奴』として、近所の不良にリンチされたりと散々な目に遭っている。

 

また、父親の営む会社も経営が傾き始めたようで、家の中はギスギスした空気になっていたらしい。

 

俺もHから、「しばらく家には来るな」と言われていた。

 

そんな折、ある事件が起きた。

 

Hの祖母が首を吊ってしまった。

 

それも祖母の自室ではなく、Hの自室で。

 

しかも第一発見者は家人ではなく、向かいの家の住人。

 

近所は大変な騒ぎになった。

 

「祖母を虐めた両親のせいだ」とか、「あの家は呪われているんだ」等と、近所はそう噂していた。

 

そして祖母の初七日も経たない頃から、家の中では次々に恐ろしいことが起こった。

 

朝方や深夜、誰もいないはずの祖母の自室からお題目が聞こえてくる。

 

祖母が亡くなったHの自室からは死臭が漂う。(その後は開かずの間になった)

 

祖母を迷惑がっていたHの母親の前にだけ、祖母の霊が現れる。

 

外で飼っていた柴犬が、不自然な体勢で窒息死。

 

Hの一番下の弟が、原因不明の熱発が原因で軽い言語障害に。

 

Hの父母の仲はさらに悪化し、人目を憚(はばか)らず罵(ののし)り合うまでになり、離婚も間近だったようだ。

 

そこでHの父親は、高名な霊能者に助けを求めた。

 

ところが、その霊能者は家を一目見るなり、「これは酷い。土地に居着く怨念と、あなたのお母様の思念が合わさって私ではとても祓えない。気休めにしかならないが、御札と御神酒である程度抑えるしかない」と言われてしまったそうだ。

 

霊能者は続けて、「悪いことは言わない。ここから早く出て行った方がいい。御札の効力で出て行った先にまでは付いてくることはないとは思うが・・・」と。

 

そういったことがあり、H家は住み始めて2年も経たずに引っ越すことになってしまった。

 

その後、Hの父親の会社は倒産は免れたものの大規模な業務縮小をせざるを得ず、それが決定打となって両親は離婚。

 

母親もノイローゼのために育児が出来ず、Hら兄弟は母方の祖父母の元へ。

 

結局、土地にまつわる因果などは全く分からないままだったそうだ。

 

先日Hの母親が亡くなった時に、彼が俺に話してくれた一家離散の原因だった。

 

父親にはもう20年会っていないと言う。

 

(終)

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