山で些細な異変が起こればすぐ下りるべし

鉈

 

これは、婆ちゃんから聞いた話。

 

婆ちゃんが子供の頃は、家にガスも電気も水道も通ってなく、まるで昔話のように山へ柴刈りに行っていたそうだ。※柴刈りとは、里山などに生える細い雑木刈り取ること。ちなみに芝刈りは、芝生などのイネ科の多年草を刈り取ること。

 

ある日、柴刈りに行った婆ちゃんの爺さんが、いくらもしないうちに青い顔をして帰ってきた。

 

勝手口の外から婆ちゃんの母を呼び、自分に塩をかけさせて、一升瓶を下げて再び出て行った。

 

そして、翌日になって帰ってきた。

 

後年になって聞いた話だと、山に着いた爺さんは、昼飯を枝に掛けて柴を刈っていたという。

 

刈っては弁当を掛けてある樹の側に持って行く。

 

そうして何度目かの時に、集めた柴の上に“食い物が置いてあった”と。

 

もちろん、爺さんの弁当ではない。

 

それで慌てて山を下りた。

 

そのまま家に戻っても中には入らず、嫁に塩で清めさせて、酒を下げて神社へ向かった。

 

神主にお祓いを頼み、一晩中、堂守をしていたという。

 

その話を聞いた時、私は率直に「それだけ?」と思った。

 

婆ちゃんに言わせると、“山は里とは違うから、一寸したことでも大事になる”のだとか。

 

なので、ほんの少しの異変があれば、すぐにでも山を下りた方が良いとのこと。

 

婆ちゃん曰く、爺さんに何事もなかったのは、すぐに山を下りてお祓いをしてもらったからだそうだ。

 

(終)

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