一席だけグッシャリと濡れているバスの座席
私は、某地方都市で貸し切りバスの運転手をしています。
一昨年の8月2日、ある子供会の行事で、隣のY県の海水浴場に日帰りで行きました。
わりと田舎の子供会なのですが、町の補助金があるため会費無料ということもあり、補助席を使うほど満席でした。
現地では子供会の親や有志などの協力でそれなりに盛り上がり、楽しく一日も過ぎました。
そして帰る時間になったのですが、一人の女性が戻ってきません。
大人や現地係員などで手分けしても見つかりません。
しばらくした頃、少し離れた海岸で「身元不明の水死体が見つかった」との情報がありました。
責任者の方が確認に行ったところ、やはり私どものお客さんでした。
その方はボランティアとして一人で参加していた女性でしたが、少しお酒を召し上がって泳がれたということで、他の人が気がつかぬ間に溺れたようです。
結局、帰りのバスは、その女性の席だけが虚しく空いていました。
ここまできたらもう一年行ってみたい
その翌年、つまり去年ですが、なんと昨年と同じ8月2日のこと。
今度は違う町の子供会と敬老会の合同海水浴として、同じバス、同じ運転手(私です)で、同じ海水浴場へ出かけました。
去年は無事事故も無く、笑顔で帰ることが出来たのですが、車庫に帰り車内清掃をしていると、一席だけ椅子がグッシャリと濡れているのです。
あれ?お客さんが濡れた物でも置いていたのかな?と思いながらも、それにしては半端でなく濡れているのです。
床まで雫が垂れるほど濡れていました。
よくよく考えると、この席は彼女が座っていた席なのです。
あまり霊感やその類の話を信じない私としては、今日のお客さんが何かこぼしたのだろうと一人納得させ、仕方なくその席を外して予備の席と交換し、翌日の乗務員へバスを引き渡して私は上がりました。
それから一年。
今年もなんと8月2日に、同じ海水浴場へ一昨年の子供会の行事で、同じバス、同じ運転手、同じ行程で行くことに。
今年は補助金が無いということで若干少ない参加者でしたが、それでも席は埋っていました。
なんだかんだ言いつつも無事に行事も終わり、最後の幹事さんを降ろせば車庫に帰って清掃だというところで、幹事さんがこう言ってこられました。
「すいません。誰か濡れた物を置いたようで。ここの席だけ濡らしてしまって申し訳ない」
ここまで話せばお分かりと思いますが、その席は一昨年亡くなられた彼女の席なのです。
偶然その席が、何か濡れ物を置いた為にそうなったのかもしれません。
しかし、普通なら床まで雫が垂れるほど濡れるというのは考えられないのです。
これが霊現象や怪奇な現象なのか、私には分かりません。
会社も不思議がっていました。
なぜなら、同じ日に、同じ場所に、同じ運転手で、同じバスが3年も行くことなんて、極めて計画的にしないと無理だと。
他にも仕事がある訳で、たまたま偶然その行程に同じ条件で3年も当たるなんておかしいと言っていました。
もし来年も同じ行程があれば、必ず運転手とバスは違うものにすると言っています。
・・・ですが、「ここまできたらもう一年行ってみたいかな」と思ったりもしています。
(終)
グッシャリじゃなくて、グッショリだよね・・。つまらん指摘ですまん。
たしかに・・・笑。表現的にはグッショリがベターですね。思わず「ああ~!」と納得してしまいました。
潮吹いたのか?