呪物を保管している神社に泥棒が入った
大学の考古日本史の教授から聞いた話だが、自分なら絶対にしない行動に、研究室で開いた口が塞がらなかった。
時は平成に入ってからで、詳しくは教えてくれなかった。
その神社は今でも参拝者が訪れる由緒ある神社で、呪物やいわく付きの物が持ち込まれることが多々ある。
持って来られる物は、『近くの林でこの藁人形が打ち付けられていた』的なものから、『本当に祟られる呪物系』まで様々。
そして、それらを受け取ると、すぐに祓える物や祈れるものは本殿の上の方に安置し、時間のかかりそうな物は蔵の地下室に安置するそうだ。
また、教授は神主さんと幼馴染らしくて、すごく古い物が送られてくると連絡をもらうという。
以前に教授は、その地下室に安置されている、過去に罪人の首をはねる為に使われたという刀を調査させてもらった事などもあった。
そのお祓い待合室、つまりは蔵の地下室に泥棒が入った。
いずれ天罰が下る
なぜ分かったのかといえば、蔵に付けられた大きな南京錠が壊され、さらに白い壁は泥棒が蹴りまくったのか、『泥棒が入りました』と教えていたからである。
神主さんは驚いて蔵の中を見渡すと、中はしっちゃかめっちゃかで、お祓い待ちの物を結構な数盗んでいったりと散々だったそうだ。
確認できたのは、江戸時代に作られた日本人形(呪物)、琥珀で出来た簪(呪物)、金で作られた仏像(いわく付き)、日本刀(いわく付き)などが盗まれていた。
さらに泥棒は、神主さんの血の気を余計に引かせるような、一番やってはならないことをやってしまった。
よくない物を閉じ込めて外に出さぬ為には、良い物で閉じ込めるしかない。
なので、代々の神主さんが特別に祈祷を捧げた水晶を地下室の中央に収め、結界によってよくない物を閉じ込めてきたという。
泥棒は、その水晶すら盗っていったのだ。
それに気付いた神主さんは、すぐさま応急処置として盛り塩を施したそうだ。
神主さんは警察に通報して調べたところ、単独犯ではなく5人ほどの集団だったことが判明した。
警察の人達は、調査が終わるとすぐに強制でお祓いをしたという。
盗まれたとはいえ、それら呪物やいわく付きの物の持ち主たちは、「泥棒が持っていくなら持っていけば良い」、「いずれ天罰が下る」と言った。
仮に全て戻ってきたとしても、「戻ってきても二度とアレには会いたくない」と、関与したくないとの事だった。
数日後、泥棒集団は捕まった。
というのも、泥棒集団は揃って原因不明の高熱に侵され、救急車を呼んだのがきっかけだった。
救急隊が目にしたのは、熱にうなされる集団と、ダンボールから粗雑に包装された日本人形やら倒れたままの仏像という状況だった。
不審に思った救急隊は警察に通報し、泥棒集団は御用となった。
それについて教授は、「海外のマニアに高値で売れるし、一度学会で●国に訪れた時に、とんでもない掘り出し物を見つけたこともある」と。
学会が終わって現地の教授から「観光案内するから付いて来い」との事で、現地の生徒に囲まれながら向こうの寺やらを見て、市場に寄ると骨董品が目に入ったので勝手にふらふらと入店した。
骨董店のおばさんが現地語で何か言うが、分からないフリをして現地の生徒を押し退けて店の中を見ていると、ガラスケースに入った巻物を発見した。
教授は何か見たことがあるような・・・と思い、「ぜひ見せて欲しい」と言うと、おばさんは手袋を付けないで渡してきたので、教授はイラッとしながらも中身を拝見した。
内容は、仏教について日本の風土と民について書かれてあり、明らかに●国のものではないことが分かる。
そして教授は、「これは一体どういった経緯でここに売られているのですか?」と質問すると、売りに来たから買った、との事だった。
あまり深くは追求しないでその巻物を買い、日本に帰国して調べると、やはり盗まれた物だった。
しかし残念ながら巻物は、以前よりも劣化していた。
巻物の持ち主は、「悲しい事だが戻ってきてくれて本当に嬉しい。本当に有難う」と、今度は厳重に保管して未来に残すと言ったとか。
教授曰く、昔から盗まれる事はあったが、最近は女性の仏像ブームも到来してしまい、神秘的だからと海外では注目されてしまうことで、そういう『金目の対象』として見られたりするそうだ。
それに目を付けた人が、盗んだり、文化財に落書きをする始末だという。
ちなみに、神主さんは新しい水晶を蔵の地下室に置き直し、現在も呪物やいわく付きの物を管理しているそうだ。
(終)