午前3時に藁人形を打ち付けていた若い女
今から6年前、季節は8月の終わり頃だった。
友人の山根(仮名)と河上(仮名)と俺の3人で、釣り目的のキャンプに行った時のこと。
そこにはキャンプ場もあったが、より池に近い神社の隅の方にテントを張り、釣りやバーベキューを楽しんだ。
翌日は早起きをして釣る予定だったので、それぞれのテント(1人用)で早めに休むことにし、疲れもあって程なく眠りについた。
「おい、おい!」
誰かの呼ぶ声で目を覚ますと、山根だった。
女が残した置き土産
まだ寝ぼけている俺に、山根は小声で言った。
「静かに!音が聞こえるだろ?」
キーン・・・キーン・・・キーン・・・。
確かに金属を打ち付けた様な音が、虫の音に混じって聞こえる。
時間を確認すると、午前3時過ぎ。
音は神社の奥に広がる杉林の方から聞こえる。
音が気になって河上も起こすことになったが、テントを覗くと姿がない。
辺りに呼びかけても返事がなかった。
仕方なく山根と2人で、その音のする方へ恐々と登っていった。
神社を越え、杉林に入る所まで来ると、音がはっきりと聞こえてきた。
暗い獣道を2人で息を殺しなから進んでいく。
200メートルほど登って暗闇に目が慣れてきた頃、前方の杉の木に隠れる様に蹲(つくば)っている河上を見つけた。
河上もこちらに気付くと、口に人差し指を当てながら手招きをする。
俺と山根は這うようにして近付く。
そして、まるでシャワーを浴びたように汗まみれの河上が指差すその先には、杉の木に藁人形を打ち付けている若い女の姿があった。
距離として30メートルほど先。
その女は、手に持っている石のようなもので人形に釘を打ち付け、恨みの言葉を吐いているのが微かに耳に届いてきた。
その女が生身の人間なのは分かったが、そのおどろおどろしい姿に3人とも完全にビビッてしまった。
とにかく逃げよう!という事になり、ゆっくり戻ろうとしたその時だった。
「誰!?誰かいるの!?」
そう叫びながら女がこちらを振り向く。
すると、それまで後ろ姿で見えなかった顔がはっきりと見えた。
次の瞬間、女は物凄い形相で「うぅぁ~ぁ!!」と叫びなから、こちらに向かって走ってきた。
俺たち3人はテントも車もほったらかして、そのままダッシュで1キロほど離れたキャンプ場まで逃げると、管理人室で事情を話してそこで朝を迎えた。
結局は一睡も出来ず、人通りが多くなった朝8時頃に神社まで戻った。
もちろん、あの女は居るはずもなかったが、もう釣りをやる気にならず、早々に片付けて帰ることにした。
しかし、荷物を車に積み込んで出発しようとした時、後部座席に座っていた河上が「うわぁ!!」と声を上げた。
振り返って見ると、河上は口を大きく開けながら車の天井を指差している。
そしてそこには、3つ並んだ五寸釘の先端が突き出ていた。
車を降りて恐る恐る確認すると、ルーフに藁人形が3つ並んで打ち付けられていた。
あとがき
車は河上のもので、修理にも出したが、やっぱり気持ち悪くて知り合いの中古車屋さんに売っていた。
そして売る時に、「釘が刺さっていた事は言わないように釘を刺した」と言ったのが河上の持ちネタになった。
(終)