気味の悪い奇声が聞こえてくる防空壕に

洞窟

 

その昔、埼玉県秩父の荒川上流ダム群の辺りに、イツザミという村八分にされた3戸ほどの集落があった。

 

その人達の間では、法律によって禁止されている『風葬』が昭和初期まで行われていた。

 

遺体を風葬する洞窟には鵺というのが棲みついており、死体の肉をキレイに食べて骨だけにしている、と言い伝えがあるそうだ。

 

※鵺(ぬえ)

日本で伝承される妖怪あるいは物の怪である。(Wikipediaより)

 

残ったその骨を洗骨し、壷に入れて、洞窟に納めるのが風習だったらしい。

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祟りだ!呪いだ!

時は過ぎ、日本が高度成長期(1955~1973年)に入る頃、父が住んでいる地元で、「戦時中に使われていた近くの防空壕から気味の悪い奇声が聞こえてくる」と噂が広まった。

 

そんなある時、地元の若い男達3人が、酒を飲んだ勢いでその防空壕へ肝試しに入った。

 

男達が戻って来ると、得体の知れない大きな獣の死骸を持ち帰っており、「これが化物の正体で退治してやった!」と地元民に勇ましく見せびらかしていた。

 

だが数日後、その獣に直接トドメを刺して殺した男が突然死んだ。

 

しかし、葬儀が行われて火葬された男の遺骨は、なぜか全く残らず全て灰になっていた。

 

結局、それで「祟りだ!呪いだ!」の噂や騒ぎが大きくなり、揉めてしまった。

 

それを見かねた土地の有力者が、火葬炉の火の調整の不手際よって起きたのが原因で祟りではない、という事情を説明して、遺族に弔慰金を渡して騒動を収拾させた。

 

だがその後、土地の有力者は防空壕の傍に、あの獣の魂を鎮める小さな塚をひっそりと祀っている。

 

地元民はそれを『鵺塚』と呼んだが、塚がダムに沈んだ後でも公でその話をする人はいなかった。

 

この話を父が亡くなる直前に聞かされ、私はよくある迷信の類と思って本気にはしていなかった。

 

・・・が、父が他界し、葬儀の最中にある事に気づいた。

 

俺は父方の身内や親戚の葬儀で『骨上げ』をした事が一度もない。

 

(終)

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