看護師寮に入ることになった私

畳部屋

※前回の話看護学校の寮の窓から覗く女の霊

看護師寮での少し寂しい思い出。

 

無事国試も合格し、その国立病院に就職することになった私は、看護師寮に入ることになった。

 

ちなみに6畳一間で、風呂とトイレと台所は共用。

 

古い建物だった。

 

学生寮から看護師寮に引っ越すだけなので荷物は少ない。

 

朝から入居部屋の掃除をし、その後は段ボール箱や布団をせっせと運び、なんとか昼までには運び終えた。

 

1階だが角部屋でラッキーと思いつつ、袋に入ったままの布団の上で一休み。

 

・・・していたら足を引っ張られた。

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あ、やっぱり出た?

同じく寮住まいの先輩と約束していたので、もう来たのかいなと思って目を開けたら知らない女の子。

 

赤かオレンジっぽい服を着た、おかっぱの女の子だった。

 

(誰ですか、あんたは?)

 

独身寮と家族用の宿舎は離れていたので、職員の子どもではない。

 

鍵はかけていたし、部屋の扉も閉まっている。

 

・・・というか、生きている気配がしない。

 

クスクス笑いながら引っ張ってくるが、その手が足首から次第に上がってくる。

 

ついには下腿の上に乗っかって、太腿を掴まれた。

 

生きていないとはいえ、触られるとくすぐったい。

 

腕を伸ばして追い払いたいが、腕が上がらない。

 

(睡眠中断の半端な覚醒による金縛りとは違うなこれは・・・)と思いつつも、元来くすぐりに弱い自分は笑うに笑えず、悶えるという嫌な状態になった。

 

女の子は調子に乗ってまだ太腿を引っ張ってくるので、いい加減ウザくなって彼女を睨みつけた。

 

まあ遊びたかっただけなんだろう。

 

女の子はしょんぼりして消えた。

 

起き上がると、3月末だというのに結構な汗をかいていた。

 

15時頃に先輩が来たので聞いてみると、「あ、やっぱり出た?」と。

 

(・・・有名だったんか。)

 

先輩は片付けにはあまり協力せず、ずっと女の子の質問ばかりしていた。

 

先輩が言うには、足を引っ張られたという入居者はこれまでにも何人かいたらしい。

 

普通は深夜に現れるのに、「さすがだ」と喜んでいた。

 

彼氏に送る写真の撮影に何度も協力した恩義を忘れているような言い草にちょっと腹が立ったので、晩飯は奢ってもらった。

 

部屋を変えてもらおうと荷解きは中止して、翌日総務課に違う棟を案内してもらったら、どうも棟自体が暗くて澱んでいる。

 

入居者もすぐに出ていくので空き部屋はあるが、冷暖房は無いとの事。

 

「ずっと空いている部屋がここ」と鍵を開けてもらった部屋は、畳も壁も真っ赤で驚いた。

 

総務の人には見えていないが、どう考えてもこれは血痕。

 

おかしいと思って定年間際の職員に聞いてみたら、20年以上前にそこで看護師が頸やら腹やら切って自殺していた。

 

供養できていない。

 

夜勤もあるのに相手するのは勘弁だ。

 

私は祖母と違って正式に修行もしていないので、すぐに諦めた。

 

結局、女の子のいる棟に落ち着くことに。

 

たまに覗いたり走り回ったりするくらいで、悪さはしなかった。

 

「くすぐったいので触るな!」とお願いしたのも効いたのか、足の引っ張りもなかった。

 

どうせなら肩を揉んでくれたら良かったのにと思ったが、子どもを使役するほど私も鬼ではないので我慢した。

 

彼女は長崎の五島列島の漁村出身。

 

小さい頃に親と別れて病院に連れて来られ、しばらくして亡くなったらしい。

 

それなりに懐いてくれていたようだが、私は数年後に転職のため退去することになった。

 

別れが近づくにつれ、女の子は出現しなくなった。

 

3月末、退職。

 

別れの言葉も言えなかった。

 

そして一昨年に同窓会があったので、まだその病院に勤務している同級生に近況を聞いてみた。

 

私が退職する数か月前に、大阪のY病院からやって来て隣の部屋に入居した看護師が、私が退去して数日後に首吊り自殺をしたとの事。

 

病棟が違うのでたまに会った時に挨拶くらいしかしなかった子だが、友人がいなかったらしい。

 

葬儀も親御さんと看護師長だけだったそうだ。

 

寮にいた女の子が原因とは考えにくい。

 

ただ、あの病院は戦前からある特殊なもので、いわくつきの場所はあちこちにあった。

 

陰気な気分の人間は、陰気なものを呼ぶ。

 

隣の寮に行ってみたのか、あの崖に迷い込んだのか、封鎖されたあの小屋や、あの壜詰め(びんづめ)を見てしまったのか。

 

心当たりのある人は、職場や学校でぼっちを作らせないでくれ。

 

この世にはいない女の子でさえ寂しがっていた。

 

ましてや生きる人間は。

 

(終)

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