テーブルの上に正座する女 2/2

女は白い着物を着た

あの時と同じ姿で、

 

すらっとした背筋を

ピンと立て、

 

テーブルの上できちんと正座し、

 

その後ろ姿だけを

私に見せていました。

 

『カン、カン』

 

今度ははっきりと、

その女から聞こえました。

 

その時、

私は声を出してしまいました。

 

何と言ったかは覚えていませんが、

またも声を出してしまったのです。

 

すると、

女は私を振り返りました。

 

女の顔と向き合った瞬間、

私はもう気がおかしくなりそうでした。

 

その女の両目には、

 

ちょうど目の中にぴったり収まる

大きさの鉄釘が刺さっていた。

 

よく見ると、

 

両手には鈍器のようなものが

握られている。

 

そして、

 

口だけで笑いながら、

こう言った。

 

「あなたも・・・

 

あなたたち家族もお終いね、

ふふふ」

 

次の日、

 

気が付くと私は自分の部屋の

ベッドで寝ていました。

 

私は少しして、

昨日何があったのか思い出し、

 

母に居間で寝ていた私を

部屋まで運んでくれたのか、

 

と聞いてみましたが・・・

 

何の事?

だと言うのです。

 

妹に聞いても同じで、

 

「どーせ寝ぼけてたんでしょーが」

 

とケラケラ笑われた。

 

しかも、

 

私が部屋の壁を叩いた時には、

妹は既に熟睡していたと。

 

そんなはずない。

 

私は確かに居間でアレを見て、

そこで意識を失ったはずです。

 

誰かが居間で倒れている

私を見つけて、

 

ベッドに運んだとしか

考えられない。

 

でも改めて思い出そうとしても、

頭がモヤモヤしていました。

 

ただ、

 

最後のあのおぞましい表情と、

ニヤリと笑った口から出た言葉は、

 

はっきり覚えていた。

 

私と家族がお終い・・・だと。

 

異変はその日のうちに

起こりました。

 

夕方頃、

 

私が学校から帰って来て、

玄関のドアを開けた時です。

 

いつもなら居間には母が居て、

 

キッチンで夕食を作っている

はずであるのに、

 

居間の方は真っ暗でした。

 

電気が消えています。

 

「お母さん、どこにいるのー?」

 

私は玄関からそう言いましたが、

 

家の中はしんと静まり返って、

まるで人の気配がしません。

 

カギは開いているのに・・・。

 

掛け忘れて買い物にでも

行ったのだろうか。

 

のん気な母なので、

たまにこういう事もあるのです。

 

やれやれと思いながら、

 

靴を脱いで家に上がろうとした、

その時、

 

『カン、カン』

 

居間の方で何かの音がしました。

 

私は全身の血という血が、

一気に凍りついたような気がしました。

 

数年前と、

そして昨日と全く同じあの音。

 

ダメだ。

 

これ以上、

ここに居てはいけない。

 

恐怖への本能が、

理性を掻き消しました。

 

ドアを乱暴に開け、

 

無我夢中でアパートの階段を

駆け下りました。

 

一体、何があったのだろうか?

 

お母さんは何処にいるの?

 

妹は?

 

家族の事を考えて、

 

さっきの音を何とかして

忘れようとしました。

 

これ以上、

アレの事を考えていると、

 

気が狂ってしまいそう

だったのです。

 

すっかり暗くなった路地を

走りに走った挙句、

 

私は近くのスーパーに

来ていました。

 

「お母さん、

きっと買い物してるよね」

 

と一人で呟き、

 

切れた息を取り戻しながら、

中に入りました。

 

時間帯が時間帯なので、

店の中に人はあまり居なかった。

 

私と同じくらいの

中学生らしき人もいれば、

 

夕食の材料を調達しに来たと見える、

主婦っぽい人もいた。

 

その至って通常の光景を見て、

少しだけ気分が落ち着いてきたので、

 

私は先ほど家で起こった事を

考えてみました。

 

真っ暗な居間、

開いていたカギ、

 

そしてあの金属音。

 

家の中には誰も居なかったはず。

 

・・・アレ以外は。

 

私が玄関先で母を呼んだ時の、

あの家の異様な静けさ。

 

あの状態で人なんか

居るはずがない・・・。

 

でも、もし居たら?

 

私は玄関までしか入っていないので、

ちゃんと中を見ていない。

 

ただ電気が消えていただけ。

 

もしかすると、

母はどこかの部屋で寝ていて、

 

私の声に気付かなかった

だけかも知れない。

 

何とかして確かめたい。

 

そう思い、

 

私は家に電話を掛けてみることに

したのです。

 

スーパーの脇にある公衆電話。

 

お金を入れて、

 

震える指で慎重に番号を

押していきました。

 

受話器を持つ手の震えが

止まりません。

 

1回、2回、3回・・・

 

コール音が頭の奥まで

響いてきます。

 

『ガチャ』

 

誰かが電話を取りました。

 

私は息を呑んだ。

 

耐え難い瞬間。

 

『もしもし、どなたですか?』

 

その声は母だった。

 

その穏やかな声を聞いて、

私は少しほっとしました・・・。

 

「もしもし、お母さん?」

 

『あら、どうしたの。

今日は随分と遅いじゃない。

 

何かあったの?』

 

私の手は、

再び震え始めました。

 

手だけじゃない。

 

足もガクガク震え出して、

立っているのがやっとだった。

 

あまりにもおかしいです。

 

いくら冷静さを失っていた私でも、

この異常には気付きました。

 

「なんで・・・お母さ・・・」

 

『え?なんでって何が・・・

ちょっと大丈夫?

 

本当にどうしたの?』

 

お母さんが今こうやって

電話に出れるはずはない。

 

私の家には居間にしか

電話がないのです。

 

さっき居間にいたのは、

 

お母さんではなく、

あのバケモノだったのに。

 

なのにどうしてこの人は平然と

電話に出ているのだろう。

 

それに、

今日は随分と遅いじゃない・・と、

 

まるで最初から今までずっと

家に居たかのような言い方。

 

私は電話の向こうで何気なく

私と話しをしている人物が、

 

得体の知れないもののようにしか

思えなかった。

 

そして、

 

乾ききった口から何とか絞って

出した声がこれだった。

 

「あなたは誰なの?」

 

『え?誰って・・・』

 

少しの間を置いて、

返事が聞こえた。

 

『あなたのお母さんよ、

ふふふ』

 

(終)

この話より8年後の続編はこちらから

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