テーブルの上に正座する女(続編) 1/2

あれから8年近くもの

月日が経ちました。

 

またも恐ろしい出来事が

ありましたので、

 

続きとしてお伝えします。

 

現在、

 

私の実家のアパートには

母と妹が住んでおり、

 

2つ上の姉は、

実家から大分離れた場所で就職し、

 

私は隣県の大学に通いつつ

一人暮らしをしています。

 

父は単身赴任で、

 

8年前と変わらず全国を

転々としています。

 

去年の冬、

久しぶりに実家から連絡があり、

 

母から『家に戻って来なさい』

と声を掛けられました。

 

私はとにかく家に帰るのが嫌で、

 

せっかくの休日をあのおぞましい場所で

過ごしてたまるものかと思い、

 

母の誘いを毎年頑なに

断っていました。

 

しかし、

 

今年は滅多に戻ることのない

姉と父が帰って来ることもあり、

 

母の怒声にも押され、

 

卒論を間近に控えつつも、

渋々帰省することにしました。

 

恐ろしい目に遭った家に再び戻ることにも

抵抗は十分にあったのですが、

 

実はそれよりも怖いことがありました。

 

母には申し訳ないことなのですが、

 

母と対面するのが

何よりも怖かったのです。

 

かつて、

母と電話越しで会話をした時、

 

母が明らかにおかしな様子だったのを

今でも覚えています。

 

母の声なのに、

 

母じゃないモノと会話をしていた、

あの瞬間。

 

今でも忘れられません。

 

・・・とはいえ、

全ては過去の事。

 

アレを見た後でも、

 

私の身の周りでは

特におかしな事はなく、

 

幸運なことに家族の中で

 

病気をしたりケガをしたりする人も

いませんでした。

 

姉も妹も元気そうにしているし、

 

母も父もここ8年で変わったことは

ないようです。

 

もはやあの『家族がお終い』という

呪いの言葉だけではなく、

 

白い着物姿の女を見たことさえも

夢だったのではないか、

 

と思い始めていたところでした。

 

耳にこびりついている

あのイヤな音だって、

 

いつかきっと忘れるに

違いありません。

 

絶対に大丈夫!

と自分に強く言い聞かせ、

 

私は実家に向かいました。

 

帰省を避けていた本当の理由を

母に悟られないよう、

 

せめて実家に居る間は明るく振舞おう、

と心に決めていました。

 

家に帰った私は、

ほっとしました。

 

父も母も、

妹も姉も元気そうで、

 

久しぶりに帰省した私を見て、

 

「卒業は大丈夫なのか」

「彼氏は出来たのか」

 

などと、

お約束のお節介を焼くのでした。

 

あれほど気にしていた母にも

変わった様子はなく、

 

ホテルの清掃業のパートで

日々忙しいとの事でした。

 

しかし、

 

姉に話しかけることだけは気まずく、

躊躇われました。

 

その理由は、

8年前のあの出来事があってから、

 

姉は私のことを今日まで徹底的に

無視し続けたからです。

 

幼い時、

 

あの真っ暗な居間で

私が大声で叫んだことが、

 

絶交のきっかけに違いなく、

 

私に対する姉の冷たさは

尋常なものではありませんでした。

 

そんな姉が実家で発した言葉に、

私は耳を疑いました。

 

「あんたのこと、

ずっと無視しててごめん」

 

まさか、かれこれ8年も

無視されていた姉から、

 

謝罪の言葉があるとは

思わなかった。

 

「私こそ、ごめんなさい。

 

でも突然どうしたの?

もしかして何かあった?」

 

驚きのあまり、

 

聞かない方がいい事まで

聞いてしまったような気がしました。

 

姉は、どこかぎこちない表情を

浮かべましたが、

 

昔使っていた姉と私の共用部屋に、

私を招いて話しをしてくれました。

 

「あたしのうちでね、

あの音が聞こえた」

 

あの音・・・

という言葉を聞いただけで、

 

私は何かひんやりとしたものが

背筋を伝うのを感じました。

 

姉はそんな私の様子を見てから、

話しを続けました。

 

「あの日、

 

仕事から帰って来たのが

夜の9時頃。

 

で、部屋でテレビ観てたんだけど、

風呂場の方で『カン、カン』って。

 

ちっちゃい頃、

 

あんたと一緒にその音を

聞いたことがあったから、

 

すぐに分かったよ。

 

これはやばいって。

 

近くに同僚が住んでたから、

 

速攻で家を出て、

その友達のところに行ったの。

 

その友達んちで話をしていたら、

また風呂場の方から『カン、カン』って。

 

おかしな鉄の音だった。

 

友達も私もパニックになって、

部屋を出て警察を呼んだ。

 

結局、

風呂場には何も無かったし、

 

一応部屋も調べてもらったけど

何もなかった」

 

姉の話は、

 

8年前の忌まわしい記憶を

完全に蘇らせました。

 

あの時の出来事は、

今でも忘れられません。

 

真っ暗な居間。

 

テーブルに座る女。

 

カン、カンという金属音。

 

振り向く女。

 

おぞましい顔。

 

何の前触れもなく聞こえる

あの音は、

 

自分をしばらくの間、

極度の金属音恐怖症にさせるほど、

 

おぞましいものでした。

 

音楽が流れる場所では、

 

カウベルや鈴のような音が

鳴らないかヒヤヒヤし、

 

台所のフライパンや鍋の発する

金属音に耳を塞いで怯え、

 

遠方に向かう時は、

 

踏み切りのある道路を避けねば

移動もままならない・・・。

 

ただ、姉の話には、

 

8年前とはいくつか違う点が

ありました。

 

白い着物姿の女を見ていなければ、

声も聞いていない。

 

聞こえたのは『カン、カン』という、

あの不気味な音だけ。

 

しかも、

場所は風呂場。

 

私は居間のテーブルの上に

アレが正座している姿は知っているが、

 

風呂場だなんて・・・。

 

本当にアレだったんだろうか・・・。

 

そう、姉に問い掛けようとした時、

 

突然、

 

姉はぼろぼろと涙をこぼし始め、

泣き出した。

 

(続く)テーブルの上に正座する女(続編) 2/2へ

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