田舎村の風習 4/8

俺は、出発する時に

腕に通した靴下で

 

右手をぐるぐる巻いて、

 

ソンチョは自分のシャツで

額の血をぬぐった。

 

ここは、危ない。

 

漠然と、

 

でも確信的にここは危ないと

二人ともそう感じて、

 

逃げるように鳥居をくぐって、

もと来たけもの道に戻った。

 

けもの道まで戻ると、

 

あらためて怖いという感情が

その場を支配した。

 

「なぁ、何なん?

あの神社。

 

俺、怖いよ。

 

ソンチョがソンチョじゃ

なかった」

 

「それ言うたら、お前だって

お前じゃなかったじゃろ。

 

はよう帰ろうや。

 

怖くてたまらんぞ」

 

「なぁ、ソンチョ、

おまつりって何なん?」

 

「知らんて。

縁日か何かと違うんか」

 

「自分で『俺はおまつりだ』

言ってたじゃろ」

 

「だからあれは俺と違うって」

 

どちらともなく走っていた。

 

怖かった。

 

あの神社で

自分たちに起こったことが、

 

なんだったのかが解らない、

得体の知れない恐怖。

 

ついに山の入り口、

コンクリ道路に帰って来た。

 

途中、脱ぎ捨てた

ソンチョと俺の靴があったから、

 

間違いなく帰って来たのだ。

 

「あぁ、よかった。

俺、もう帰ってこれんと思った」

 

「アホ言うな。

 

俺がついとるんじゃ、

迷うわけないじゃろ。

 

それより、お前その手ぇ

ちゃんと消毒しろよ」

 

「ソンチョも、

おでこ消毒せんとアカンぞ」

 

「わかっとるよ。

 

あと、ジジイにあの神社のこと

聞いてみる。

 

今日あったこと、

全部は話さんよ。

 

きっと信じてもらえんから」

 

「うん、秘密基地には

できないな」

 

「そんなもん、怖くてできるか。

俺は二度と行かんぞ」

 

ちょうど俺の家とソンチョの家への

道が分かれる電柱の下で、

 

「そんじゃな、

 

また明日お前んちに

行くからな」

 

「うん、待ってるから来てよ。

 

なぁ、ばいばいする前に

聞いとくけど、

 

お前、ソンチョだよな」

 

「アホ言うな。

 

まだ怖がってるんか。

俺はソンチョじゃ。

 

お前の手ぇなんか

食いたくないわい」

 

その言葉に安心して、

俺達はバイバイした。

 

家に着くと、

 

母親は手の怪我に

かなり驚いていたが、

 

「子供は加減を知らんのや」

 

と言って赤チンをつけてくれた。

 

それよか、

 

かぶれた左手の方を

怒っていた。

 

俺母「うるしはかぶれるって

ゆうたじゃろが」

 

・・・と。

 

母親と、仕事から帰って来た

親父に神社のことを聞いたけど、

 

俺父「山の中の神社?

 

知らんなぁ。

聞いたことないぞ。

 

誰かおったんか?

今度、俺も連れていき」

 

という感じで、

何も情報は得られなかった。

 

きっと明日になったら、

 

ソンチョが何か調べてくるに

違いないじゃろ。

 

と風呂に入りながら、

そんな風に考えていた。

 

しかし、今回に限っては、

 

家に着いたら遠足は終わり、

ではなかった。

 

翌朝10時ごろ。

 

俺の家に来たのは

ソンチョではなく、

 

ソンチョの母親だった。

 

ソ母「○○君、

 

△△(ソンチョの名前)はな、

いま病院におるんよ。

 

昨日の夜にあの子、

てんかん起こしてな。

 

ちょっと怪我して

入院しとるんよ。

 

あの子、頭打って

帰ってきたから、

 

それでかなぁて

思ったんだけど、

 

違うみたいなんよ。

 

意識はっきりしとるし、

変なことは何も言うてないし。

 

今朝になって、

 

○○君を呼んでくれって

ずっと言うもんだから」

 

それで俺を呼びに来たんだと。

 

脳裏によぎったのは、

 

やっぱりまだソンチョに

戻ってなかったのではないか、

 

ということだった。

 

俺はソンチョの母親の

車に乗せられて、

 

ソンチョのいる病院まで

向かった。

 

もしソンチョじゃなかったら

どうしよう。

 

また俺の手を食わせてくれと

言われたらどうしよう。

 

病室に入ると、

 

頭に包帯を巻いたソンチョが

ベッドに横になっていた。

 

胸元にも白く映える

包帯が見えた。

 

最初に声をかけてきたのは

ソンチョのほうだった。

 

「よぉ」

 

「ソンチョ・・・」

 

俺はどう答えていいのか

わからなかった。

 

もしかしたら、

ソンチョじゃないかもしれない。

 

ソンチョの痛々しい姿を

直視できなかった。

 

「かあちゃん、

 

俺こいつと二人で話したいから、

どっか行ってくれ」

 

ソ母「親に向かって

どっか行けとは、

 

なんじゃろお前は。

 

じゃあジュース買って

きちゃるから。

 

○○君、△△のこと

見といてね」

 

そうして病室には、

ソンチョと俺の二人になった。

 

正直に言おう・・・

 

俺はこの時、怖かった。

 

「おまえ・・・

ソンチョか?

 

それとも、

昨日の神社のやつか?」

 

「なぁ・・・手ぇ、

食わせてくれんか・・・」

 

「お前、やっぱり!!」

 

「ウソじゃウソ!

 

お前はすぐ・・・

面白いなぁ。

 

俺じゃ。

ソンチョじゃい。

 

それより、お前は昨日、

何もなかったんか」

 

「何かあったら

ここに来とらんぞ。

 

ホントにホントのソンチョか?

 

俺の手ぇ、

食いたくないか?」

 

「食いたくないわい。

 

お前の手ぇなんぞ、

ばっちぃ。

 

まだ便所虫の方が

きれいじゃ」

 

「ソンチョ・・・

 

ソンチョだな?

間違いないな?

 

昨日何があったんじゃ?」

 

「あのな。

 

お前に話していいのか、

ちょっとわからん。

 

お前は臆病者だから、

 

もしかしたら俺のこと

嫌いになるかもしれんぞ」

 

じゃあなんで

俺を呼んだんだと尋ねると、

 

話していいかわからんから

呼んだんだと。

 

でもそのやり取りで、

 

目の前にいるコイツは

間違いなくソンチョだとわかった。

 

(続く)田舎村の風習 5/8へ

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