田舎村の風習 5/8

「いい。

 

ソンチョのこと

嫌いになんてならん。

 

俺達、ダチンコじゃろ」

 

「なら、話す」

 

そしてソンチョは昨日の夜、

 

俺と別れてから起こったことを

話し始めた。

 

「あのな、

 

あの後、まっすぐ

家に帰った。

 

家に帰って、

かあちゃんにしこたま怒られた。

 

ほら、おでこから血ぃ

流してただろ?

 

それでじゃ。

 

まぁそんなことは

どうでもいい。

 

みんなでごはんを

食ってる時じゃ。

 

俺なぁ、急に神社にいたときの

感じになってきたんよ。

 

だから、そんときは

俺じゃないんよ。

 

だけど、

 

動いたり感じたり

考えたりしてるのは

 

俺なんよなぁ。

 

あの感じ、

不思議なんだけどなぁ。

 

俺な、自分の心臓が

どうしても食べたくなってな。

 

食ったこともないのに、

 

美味しい美味しい心臓が

どうしても食べたいって

 

気持ちになってなぁ。

 

台所に包丁取り行って、

 

自分で自分の胸を

切ったんじゃ。

 

でも、切った痛みで

正気に戻ったんじゃ。

 

たぶんかあちゃんは、

 

俺がてんかん起こしたとか

言ってたじゃろ?

 

たぶん周りから見れば

そう見えたんだろなぁ」

 

俺はぽかんと口を開けて

聞いていた。

 

ソンチョが自分で自分の心臓を

食おうとしただなんて。

 

胸の白い包帯はそのためか。

 

「それホントか?

 

また俺を怖がらせるための

ウソじゃないだろな」

 

「ホントじゃ。

 

だから、

お前も気ぃつけろ。

 

たぶん、

神社のときのアレ、

 

まだ全部抜けとらんぞ。

 

あと、ジジイに神社のこ

と聞いたけど、

 

やっぱり何も知らんかった。

 

ウソついてるふうでも

なかったから、

 

ホントに知らんみたいだ」

 

「村長が知らんのだったら、

誰も知らんのと違うんか」

 

「そうなるかもな」

 

そこでソンチョの母親が

帰って来た。

 

その手には

オレンジジュースが2本。

 

俺はソンチョと仲良く飲んだ。

 

ソンチョの母親の前では

神社の話はできなかったから、

 

ジュースを飲み終えると

俺は「帰るよ」と席を立った。

 

その別れ際のことだ。

 

病室を出ようと背を向けた俺に、

ソンチョが話しかけてきた。

 

「なぁ」

 

「なんじゃ?」

 

「俺な・・・俺達な・・・

ダチンコだよな」

 

「あたりまえじゃ。

俺の手ぇ食わせたろか」

 

ソンチョらしからぬ弱気な言葉に、

俺は軽口で答えた。

 

ソンチョは、

 

「そんなマズそうなもん食えるか」

 

と最後はソンチョらしかった。

 

家まで送ってもらう車の中で、

 

そういえば神社の檀家の板を

元に戻してなかったな・・・

 

と思い出したが、

 

もう二度とあの神社には

行く気がしなくて、

 

忘れることにした。

 

実はこの後ほどなくして、

 

あの神社がなんなのか、

 

『おまつり』ってなんだったのか

わかるんだけど、

 

それはまた別の話で。

 

ちなみに今、

 

俺とソンチョは同じ学校で

先生をやってる。

 

勤めるなら故郷の村が

よかったけど、

 

もう村には学校がないから。

 

過疎ってやつだ。

 

学校じゃ本名で呼ぶけど、

 

二人で飲むときは

今でもソンチョって呼んでる。

 

もちろんこれからも、

ソンチョと俺はダチンコだ。

 

(続く)田舎村の風習 6/8へ

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