蛙毒 3/5

当時、私はオカルトというものに

目覚め始めていた。

 

そうでなくとも、不思議や謎に

一番関心のある年頃だ。

 

それに、一度気になると、

動かずにはいられない。

 

自分で言うのもなんだが、

私はそういう困った性格の持ち主だった。

 

そうして我慢しきれなくなった

私はその夏、

 

Oが言っていた海沿いの家に

向かうことに決めた。

 

ただし、単独ではさすがに心細いので、

友人を一人誘ってだ。

 

その友人は『自称、見えるヒト』であり、

私がオカルトにはまるきっかけとなった

人物と言っていい。

 

「おい、次の休みにさ。Oが言ってた

カエルの家に行ってみようぜ」

 

学校にて、友人に向かって

そう切り出すと、

 

彼は無表情の中にも

ひどく面倒くさそうな顔をして、

 

「・・・呪われても知らないよ」

 

と言った。

 

彼は、くらげ。

もちろん、あだ名だ。

 

その日、私は朝早くから自転車に跨り、

まずは待ち合わせ場所である

街の中心に掛かる橋へと向かった。

 

私たちが一緒に行動する時はいつも、

地蔵橋と呼ばれるこの橋を使う。

 

くらげは先に着いていて、

私のことを待っていた。

 

不思議なのだが、

この橋で待ち合わせをしたとして、

私は彼を待ったことがない。

 

いつも彼は先に待っていて、

黙って川の様子を眺めているのだった。

 

一度、彼がどれくらい早く来ているのか

調べてやろうと思って、

 

わざと待ち合わせ時間より四十分も前に、

橋に出向いたことがある。

 

しかし、その時ですら、

彼は私より先に着いていた。

 

「や。待ったか?」

 

自転車に乗ったまま声を掛けると、

くらげはゆっくりと首を横に振り、

 

「・・・さっき来たところだよ」

 

彼はいつもそう言うのだが、

それが果たして本当なのか嘘なのか。

 

真相は闇の中だ。

 

「行こうぜ」と言うと、

彼も自分の自転車に跨った。

 

Oの言った海沿いの集落に行くには、

山を一つ越えなければならない。

 

見上げると、空には薄い雲が広がっていた。

 

天気予報では、今日は一日中曇りとの

ことだったが、さてどうなるだろう。

 

二人で自転車を漕ぎ、山の峠を越える。

 

すっきり晴れた日と違って、

眼下に見える海もどこか灰色染みていて、

 

汗で体にへばりついたシャツや、

湿度の高いむしむしした気温も相まって、

何だか余計に疲れた気がした。

 

太平洋に到着してからも、

海沿いの道を少しの間、

東へ向けて走らなければならない。

 

目的の集落に到着したのは昼前だった。

 

広い松林の間を縫うように細い道が

いくつかあって、

 

ポツリポツリと民家が点在している。

 

集落の入り口に一軒の駄菓子屋があったので、

情報収集に休憩もかねて立ち寄ることにした。

 

店の中には、小柄で糸の様に細い目をした

五十台くらいの女性が居た。

 

彼女は私たちに気付くと、

「あんたら、ここらでは見ん子やね」

と言った。

 

「隣町から、山を越えて来たんです」

 

私が正直に答えると、

「あんらまあ」と驚いていた。

 

私とくらげは、

そこでアイスを一つずつ買った。

 

料金を払うついでに、

「この辺りで、ペットボトルを

周りに並べてる家ってありますか?」

と訊いてみた。

 

すると、おばあさんが糸のような目を

こちらに向けた。

 

「そんなこと聞いて、どうするん?」

 

口調は柔らかいが、

私の質問はあまり好ましいものでは

なかったようだ。

 

私は、その顔に子供らしい

満面の笑みを浮かべて見せる。

 

「あ、私たち、夏休みの自由研究で、

『海沿いの変わった場所』っていうのを

調べてるんですよ。

 

いくつか集めて、

マップを作成しようと思ってて。

 

それで、この辺りに変わった家があるって

聞いたものですから」

 

隣でくらげが私をじっと見つめていた。

何が言いたいのかは分かっている。

 

自分でも、良くもこう、ぽんぽん

口からでまかせが出てくるものだと、

半ば呆れつつ半ば感心していた。

 

「ああ、そうなんね」と言って、

おばさんは納得したように何度か頷いた。

 

内心ほくそ笑む。

 

この演技で騙せない人間は、

私の母親くらいだ。

 

「確かに変わっちゅうけど・・・。

あんまり見に行かん方がええよ」

 

おばさんが言うには、『ペットボトルの家』に

老人が一人住んでいるらしい。

 

予想は出来ていたが、彼女の口ぶりからしても、

あまり快い人物では無いようだ。

 

「そのペットボトルの中には、

何がおると思う?」

 

こちらを脅かすような口調だ。

 

私も興味津々な振りをして、

「・・・何でしょう?」と言う。

 

「か、え、る。

・・・蛙が、入っちゅうんよ」

 

知っている。

でも、驚いてみせる。

 

「ペットボトルに入れて逃げれんようにして、

太陽の光で焼き殺すんよ。

 

・・・あの人はね、

カエルを殺すのが趣味なんよ」

 

その老人は、そうやって焼き殺した

蛙の死骸をペットボトルに入れたまま、

 

集落の他の家の門の前に

置いていくのだという。

 

「うちの前にも置かれたことがあってねぇ」

 

軽くため息を吐きながら、

おばさんは言った。

 

(続く)蛙毒 4/5へ

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