蛙毒 4/5

「どうして、そんなことするんですか?」

 

「とっと昔にね。何か村で

ごたごたがあったらしいんよ。

 

妹か弟が病気で死んだんやったかな・・・。

詳しくは知らんけんど。

 

それをまだ根に持って、

嫌がらせしに来るんやと」

 

嫌がらせに蛙の死骸を置いていく。

まるで子供の発想だなと私は思った。

 

Oみたいな人間がやってそうだ。

 

しかし、本当にただの嫌がらせなのだろうか。

 

その時、家の前に置かれていた

蛙の死骸はどうしたのかと訊くと、

 

気持ち悪いからペットボトルごと

捨てたとのこと。

 

当然の答えだ。

 

「その家って、どこにあるんですか?」

 

おばさんはあまり答えたくなさそうだったが、

「遠くから見るだけですよ」という私の言葉に、

 

「うーん。まあ、見るだけやったら・・・」

と渋々教えてくれた。

 

大体聞くべき事は聞けたので、

私とくらげは彼女に礼を言って、

店を出ようとした。

 

その際、ふと一つだけ

聞き忘れていたことに気付き、

私は振り返る。

 

「あの、ここの辺りに、

『Oさん』っていますか?」

 

私の言葉に、

おばさんは細い目を何度か瞬かせた。

 

「二つ隣の家がOっていうけど・・・。

それがどうかしたん?」

 

「その人の家にも、同じペットボトルが

置かれたことってありますか」

 

「・・・どうやろねぇ。でも、あると思うよ。

この辺りの人は、皆やられてるはずやから」

 

お礼を言って、店を出た。

 

店の外にあるベンチに二人で座り、

そこでちょっと柔らかくなったアイスを食べる。

 

私は普通のアイスクリームで、

くらげは最中だった。

 

文字通りアイスをぺろりと平らげた私は、

隣のくらげに尋ねる。

 

「なあ、・・・呪いって、

本当にあんのかな?」

 

今回Oに起こった出来事。

 

その原因はやはり『呪い』

なのだろうか。

 

ただしそれは『カエルの呪い』といった

可愛らしいものではなく、

 

人間が人間にかけた、

誰かが誰かを不幸にするための呪い。

 

自業自得とはいえ、Oはそのとばっちりを

受けてしまったのではないか。

 

わざわざ最中のブロックを

手でちぎりながら食べていたくらげは、

 

最後のブロックを口に含み、

こちらがイライラするほどゆっくりと

飲み込んでから、

 

「・・・あるんじゃないかな」と言った。

 

「ほら、昔から、蛙に触ると

イボが出来る、って言うし」

 

「そりゃ、迷信だろ」

 

「・・・似たようなものだと思うけど」

 

くらげを見る。

 

その口調は、どこかいつもの彼と

違う気がした。

 

くらげは無意識だろうが

私の視線をかわすように立ち上がり、

 

アイスの開き袋を綺麗に四つ折りにして、

傍にあったゴミ箱に捨てた。

 

「雨が降りそうだね」

 

空を見上げ、そう呟く彼は、

いつもの彼だ。

 

私も立ち上がる。

 

「・・・んじゃ、さっさと行きますか」

 

私の言葉に、彼は小さく頷いた。

 

二件隣の『O』と表札の出ている家を通り過ぎ、

いくつか松林を潜り抜け、

 

セミの鳴き声に背中を押されながら、

駄菓子屋のおばさんに聞いた道を進む。

 

Oが言った通り、集落の外れ。

 

目の前に小さな墓地を臨む、

古ぼけた平屋の民家。

 

そこが目的の家だということは

一目で分かった。

 

大して高くない塀の上に、

ペットボトルがずらりと並べて置かれてある。

 

Oが言った百個は言い過ぎにしても、

数十個は確かにありそうだった。

 

陽に焼かれ黒く変色した蛙の死骸が

入ったペットボトル。

 

いくつかは道に落ちてしまっている。

見たところ、生きている蛙はいなかった。

 

セミの声に混じって、

遠くで浜辺に打ち寄せる

波の音が聞こえた。

 

辺りは静かで人の気配は無い。

 

私とくらげは自転車を降りて、

塀の傍に近寄った。

 

近くで見るとペットボトルの表面には、

それぞれ小さく文字が書かれてあることが

分かる。

 

どれも人の苗字だ。

 

駄菓子屋で聞いた話を思い出す。

 

蛙の死骸が入ったペットボトルを

家の前に置いていく老人。

 

それがもし、単なる嫌がらせ目的では

なかったとしたら。

 

もう随分と学校に来ていないOは、

自分の部屋から出て来ず、

おかしくなってしまったのだと噂されている。

 

呪い。

 

塀に沿って歩く。

 

庭へと繋がる門は、無用心にも

少しだけ開いていた。

 

いくらか躊躇った後、

私は門の中に足を踏み入れた。

 

「見るだけじゃなかったの?」

 

後ろからくらげの声。

 

「・・・庭を見るだけだ」

 

手入れをしていないのか、

庭のいたるところで雑草が背を伸ばしている。

 

家の窓は全て閉められ、

カーテンが引かれているため

中の様子は伺えない。

 

庭の隅には、これまた今にも壊れそうな

納屋があり、鍬が一本立て掛けてあった。

 

納屋とは逆方向の隅の方で、

私は何かを見つけた。

 

(続く)蛙毒 5/5へ

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